2020 Fiscal Year Annual Research Report
Archiving the Memories of Others: A Basic Study on the Narration of Military Experience in Post-War Japanese Society
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18K00325
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
五味渕 典嗣 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10433707)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 戦争記憶 / 対抗的記憶 / 従軍体験 / 日中戦争 / アジア太平洋戦争 / 表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大のため国内外での調査出張が困難になったことを受け、当初の予定を大幅に変更、以下の活動を行った。 (1)従軍体験テクスト・戦争体験テクストの調査と分析、研究成果の発信。前年度に引き続き、1941年12月のアジア太平洋戦争勃発以後の兵士やジャーナリストによる従軍報告、日本敗戦後に刊行された当時の日記や回想記の調査を進めた。とくに、日本列島に対する本格的な空襲が始まる1944年秋以降の時期に注目、同時代の新聞・雑誌メディアの言説と文学者・知識人による当時の日記の記述とを照合、戦時末期から敗戦直後にかけてのメディア空間を立体的に捉え返すことを目指した。また、日本近代文学館が所蔵する高見順資料の調査から、高見が「徴用」で従軍したビルマでの取材記録を確認、高見が「従軍作家」という枠組みの中で独自の表現を模索していたことを明らかにした。 (2)「二世」たちの戦争記憶への注目。近年、小熊英二『生きて帰ってきた男』(岩波新書、2015年)や辺見庸『完全版 1★9★3★7』(上下。角川文庫、2017年)など、戦争記憶の「継承」という文脈で、戦場体験者の子の世代からの発信が続いている。この傾向は、20世紀の戦争の加害者と被害者という決定的な差異を考慮しなければならないが、ナチスによるホロコーストの犠牲者・生存者の子や孫が行った歴史実践と問題意識を共有する部分がある。本研究では、とくに加害者の子どもたちが親世代の戦争記憶とどう向き合うかが重要だと説いたエヴァ・ホフマンの議論を参照、村上春樹のエッセイ『猫を棄てる』(文藝春秋、2020年)について、戦場での加害記憶を内攻させた父親の身体に注目した「二世」世代による戦争記憶の語りと位置づける論考を発表した。
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Research Products
(2 results)