2019 Fiscal Year Research-status Report
動物の身体をめぐる3つの位相からみる生物とモノの連続性
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18K01189
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山口 未花子 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (60507151)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 動物 / アート / カナダ先住民 / モノ / 狩猟実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「人間」に対する「非人間」的存在という点で取り上げられることの多かった「動物」を、さらに、生 体、遺骸、モノという3つの相に分けることで、それぞれの相が人間にどのような観念をもたらすのかを明らかにすることを目的としている。 昨年度はフィールド調査を通じてカナダの二つの先住民グループを対象に、儀礼における動物表象や動物の身体の利用がどのように行われているかを明らかにした。ただし、儀礼にも多様な種類があることから本年度は、内陸トリンギットの連帯を深めることを目的とした祭りについて準備段階からフィールドに入って調査した。この中で、視覚芸術の役割や宴会で供される動物種とコミュニティとの結びつきといった新たな知見が得られるとともに、描かれたが人々の紐帯を維持する重要な役目を果たしていることが確認された。また人々が動物への親密さを、物語を通じて培い、例えば海に生息するシャチのような見たことのない動物を身近な存在、自分のルーツとして感じることが可能になると同時に、これが動物を描くこと、描かれたモノと相互作用を持つことも明らかになった。これは、実際に触れ合うことのない動物のイメージが物語やアートを通じて人々の中に動物との連続性を作り出し維持する働きをしているということでもある。 一方で動物との直接的な関わりからどのような動物への情動や表現が生じるのか考察するために、本年度は自分で狩猟を実践し、とれた動物の毛皮を加工する過程を経験することで、動物への強い情動や資源としての動物の身体の美しさ、加工の困難さといった点を自らの内部に起きた生成という観点から理解することができた。 今後は加工した毛皮から製作したモノがさらにどのような働き/働きかけをするのかという点や、カナダ先住民の事例との比較などを行い、本研究計画の目的についてさらに探求する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初計画していたフィールド調査を遂行し、着実な成果を上げることができた。また狩猟実践については実施するまでに時間がかかると思われたが、本年度中に銃の許可申請がおり、実際自分で鹿を一頭仕留め、解体、毛皮のなめしまでの行程を実施することができた。さらに、「描かれた動物」に焦点を当てた新しい講義を開設したことで、視覚芸術だけでなく現代アート、アールブリュット。音楽や踊りといったジャンルにとらわれず、地域や時代を超えた多彩な描写について、資料や一時データを精査分析する作業をおこなった。この中で動物の描写がいくつかの型をもつとともに、人と自然をつなぐもの、あるいは初源的な状態を呼び覚ますものとして働くという通底した作用があることが示唆された。 こうした視点をもう一度カナダ先住民の二つのグループの比較につなげること、狩猟実践を通じ内側からの理解を可能にしたことによって、本研究の目的である人が動物を表すことでそこに何が生成し、変化するのか、その中で動物の身体性はどのように問われるのか、問われないのかということをより深く探求する道筋が見通せた。以上の点から、今年度の計画は当初の予定以上に進展しているということができる。 また、成果の還元という観点からも、学会発表や著書、論文を発表し、着実に形にしている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の計画について、当初はカナダでのフィールド調査を中心に予定を組み立てていたが、新型コロナウィルスの影響で、カナダ国内はもとより日本国内でのフィールド調査の実施も見通せない状況である。従って、もし年度後半に状況が許せばフィールド調査を実施する機を伺うものとする。調査では、内陸トリンギットの彫刻家の制作過程に着目するとともに、自身でもアートの技法を学ぶことで、より深く製作の中で何が生成するのかを明らかにする。 ただし、実際には調査はむつかしいと考えられることから、国内での狩猟実践と動物資源の加工と利用についての調査、およびこれまでのデータの整理、分析を行い、動物との直接的なふれあいがどのような情動や表現と結びつくのか、直接的なふれあいを介さない表現との違いはあるのか、また動物の身体自身が持つイメージの知からというものについても考察を深めていきたい。このために必要な資料の購読や展示などの見学についても可能な限り行う。
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Research Products
(4 results)