2021 Fiscal Year Research-status Report
生鮮食料品の流通改革とグランドデザイン:水産物を巡る制度流通の現代的意義と商機能
Project/Area Number |
18K05848
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
山本 尚俊 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (00399099)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北野 慎一 京都大学, 農学研究科, 准教授 (20434839)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 2018年法改正の影響 / 市場卸の合併・業務提携等 / 上場卸の株主構成変化 / 卸の川上・川下対応 / 卸・仲卸の業務及び市場流通・場外流通の境界曖昧化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、生産・消費の安定に資する流通の要件・課題を、水産物市場流通の現代的意義・機能に焦点をあてて考究することである。本年度は2018年法改正の影響把握を主眼に、(1)市場卸の事業拡張等の動き、(2)上場卸を巡る株主構成変化、(3)市場卸の経営・対応を検討した。(1)(2)は業界紙と有報の収集・分析、後者は市場卸A等の聞き取り調査を実施した。法改正が市場業者に川上・川下対応の見直しを促すのか、それが市場業者のみならず水産会社など場外組織起点でも進むのか、に注目した。 (1)市場法の大幅改廃や以後の各市場条例の改定方針が見え始めた2018年以降、市場業者と場外業者、卸と仲卸の双方向で垂直・水平統合の動き等が加速する。それに伴い進む主体間の関係変化が流通の今後に影響しようが、同制度改革は卸と仲卸の垣根のみならず、市場業者の場外業務の拡張や場外業者の市場活用など市場と場外、また担い手間の業務の棲み分けを弱め、両チャネルの境界を曖昧化させるとの認識を強めた。 (2)消費地市場卸を傘下に持つのは大手水産2社と総合商社1社(該当卸数は順に8(子会社6)・2・1)だが、株式保有は多様な組織で確認された。その変動が著しいのは豊洲卸等に対する大手水産会社と養殖流通大手の保有で、両社が資本・業務提携を結ぶ状況も考慮すれば、それは豊洲卸の将来の統合のみならず、彼ら自身の既存事業の見直しや販売回路となる市場卸の広域再編をも見据えた動きであることも想定された。 (3)漁協等との商品開発に取り組む地方の独立系卸Aは、法改正後、大都市に営業拠点や仲卸を新設、グループ企業等と連携し商圏拡大に動く。それは、漁協など川上側にとって独自対応に限界のある販路開拓等の外部一元化を可能にし、また生産・商品化過程の取り込みはA社の対川下交渉・販売に機動性や柔軟性を与え、競争優位をうむ関係が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
公布内定時の計画に照らせば、①市場流通のパフォーマンスを場外流通と比較検証すること、②制度流通の内・外発的な問題を概括し再編課題を考究すること、が主な当初課題として残っていたが、長引くコロナ禍の行動制限とその終息時期が見通せないことから、川上・川中・川下の各段階の担い手を対象とした広域的かつ連続的な面談調査を伴う前掲①の実施は断念することとした。他方、感染拡大が著しく行動制限等で調査に出ることができない時を利用して、官邸主導の市場改革協議が始まる2016年(なかでもそれに先立つ10次卸売市場整備基本方針公表後)以降を対象に市場卸によるM&Aや事業拡張等の動き、上場卸を巡る株主構成の変化(市場外組織等の出資変化)に関する資料収集・検討を追加的に行った。その上で、昨年度「今後の研究の推進方策等」として記した代替案(川中の市場業者の取り組みを分析軸に川上・川下との関係を捉える枠組みに対象・範囲を変更)を踏まえ、感染拡大がやや落ち着いた時期に地方都市の中央卸売市場の大卸A等でのヒアリング調査を強行した。ただ、当該調査に関しては、その後も感染の再拡大が繰り返される中で、追加調査を行えておらず、事実関係の把握には不十分な点も多い。さらに、こうした調査・検討の遅延から、本研究の総括部分にあたる前掲②(制度流通の内・外発的な問題を概括し再編課題を考究)にも取り掛かれておらず、今年度最終年度であった当該事業を延長せざるを得ない状況となった。コロナ禍で取り組みそのものの見直しを迫られつつも可能な範囲で柔軟に検討を進めてはきたが、内容的な不十分さや対応の遅延は否めない。以上のことから、「遅れている」と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
前掲の通り、卸Aの取り組みに係る不明点・事実関係の補足調査・検討(対象:卸A、同グループ企業、その取引主体)を行うことと、本研究全体の総括として制度流通の内・外発的な問題を念頭におきつつ再編やそれに関わる事項について考究すること、が課題として残っており、その完遂が次年度の最優先事項である。前者については、昨年度、コロナ禍での対応としてZoomを用いたヒアリング調査も試行したが、対面実施時の様な成果は得られず、調査先担当者から対面実施を強く求められた。故に、調査は可能な限り従来通りの対面実施を優先したい。その場合、広域移動を伴うためコロナ禍の行動制限等の影響を受けざるを得ないが、その点は柔軟に対応・判断する他ない。なお、今年度は当該卸を基点に川上側との関係に焦点をあてた調査を行ったが、その事実関係の補強を主眼としつつ、可能であれば当該卸と川下組織側の取り組みに調査を拡大したい(この点は先方の協力を得られるかは不明)。また、研究の総括部分については、これまでの調査・検討にあわせて軌道修正が必要となることも想定されるが、市場の機能や公共性、卸・仲卸の関係性等に注目しつつ、卸売市場流通の再編像について検討したい。その際、それら検討の前提として、卸売市場流通を取り巻く情勢変化(外部環境・内部環境)を体系的に再整理することも必要に応じて検討したい。
|
Causes of Carryover |
残額が生じた主な理由は、コロナ感染症の拡大下で頻発する行動制限によって、調査の予定が立たず(再調整を強いられ)、やや落ち着いた時に調査を強行したものの、反復的な補足調査は実施できず、ヒアリング調査の実施回数と範囲が限られたこと、事業延長を見越し予算執行を抑えたこと、による。本事業は1年延長するため、残額はその活動・検討にあてる。具体的には、前掲ヒアリング調査及び総括部分の検討に活用可能な資料等の購入に充当する予定である。
|