2018 Fiscal Year Research-status Report
サイクリン依存性キナーゼAに見出した新奇なブレーキ機能の生理的意義とその分子基盤
Project/Area Number |
18K06273
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤田 知道 北海道大学, 理学研究院, 教授 (50322631)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ヒメツリガネゴケ / サイクリン依存性キナーゼ / ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は常に周囲の環境からストレスを受け、ストレスに対応するためにエネルギーを消費している。ストレス耐性と成長はトレードオフの関係にあり、限られたエネルギーをどの程度ストレス応答に使い、どの程度成長に使うのか、このバランス制御は重要である。従ってこの分子制御機構の全体を理解することは、植物の生存戦略の本質的なしくみを理解することになる。しかしこの制御機構は複雑でありその分子実態の全体像はまだよくわか っていない。 コケ植物ヒメツリガネゴケにおいて、細胞周期エンジンの中核をなすサイクリン依存性キナーゼPpCDKA (Physcomitrella patens CDKA) に着目し、その遺伝子破壊株を作成したところ、通常の栽培環境下では致死とはならず、ほぼ正常に成長することを見出している。ところがこの遺伝子破壊株は高温、乾燥などに対するストレス感受性が著しく亢進しており、細胞が極性を失い球状に変化しその後死に至ることを見出した。またABAにも高感受性を示すことを見出した。これらの結果は、CDKAが外界からの環境ストレス応答に重要な役割を持っており、環境ストレスに対して過剰なストレス応答が起こらないように抑制していることを示していた。 そこで本研究では、CDKAによるストレス応答の制御メカニズムを研究しその分子基盤の解明を目指し、植物の重要な生存戦略 の1つ、成長とストレス応答のバランス制御の新しい局面を明らかにすることを目的とする。本年度は、より広範なストレスに対してこの遺伝子破壊株の応答を調べたとともに、CDKAのターゲットでありストレス応答制御に関わる可能性の考えられる新たな因子の探索を試みた。また遺伝子破壊株と野生株を高温下で培養し、両者の遺伝子を発現を網羅的に比較し、有意な発現変動遺伝子の中からストレス応答に関わるものの探索を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)より広範なストレスに対してこの遺伝子破壊株の応答を調べたところ、PpCDKAが高温馴化の制御に関わる可能性が得られた。そこで再現性の確認を行ったが良い結果が得られなかった。また乾燥ストレスに対する応答性を定量的に評価しようと試みたが、ばらつきが多く、この点も検討の余地がある。この一方で、単純な高温ストレスに対する影響を定量的に評価できる観察系は確立できたと考えられたので、高温ストレスに着目して、今後の実験を進めている。 (2)CDKAのターゲットでありストレス応答制御に関わる可能性の考えられる新たな因子の探索をPpCDKAに蛍光タンパク質遺伝子を融合した組換え体を用いて、蛍光タンパク質に対する抗体を用いて免疫沈降し、共沈したタンパク質を質量分析系により多数同定することができた。現在、それら免疫沈降物を調べているところであるが、今のところストレス応答に関わるタンパク質を見いだせていない。 (3)遺伝子破壊株と野生株を高温下で培養し、両者の発現変動遺伝子を網羅的に解析し、ストレス応答に関わると予想できるものを多数同定する事でができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)高温ストレスに着目して、野生型ヒメツリガネゴケとPpCDKA遺伝子破壊株の応答の違いを詳しく調べる。また紫外線や塩ストレス、重金属ストレスなど他のストレス応答に対する応答も調べる。 (2)免疫沈降、質量分析法により同定したCDKAのターゲット候補のリストを引き続き詳しく調べ、ストレス応答に関わるタンパク質の候補のリスト化をする。 (3)遺伝子破壊株と野生株を高温下で培養し、両者の発現変動遺伝子を網羅的に解析し、ストレス応答に関わると予想できるものを多数同定する事でができた。これら候補の機能を詳細に調べ、(1)の表現型などと合わせて、候補のリスト化を完成する。 (4)上記、(1)ー(3)などの結果から、上位の候補遺伝子を選んで、それらの遺伝子破壊体や過剰発現体を作成し、PpCDKAとの関わりを調べる。このような解析を通じて、ヒメツリガネゴケにおいてPpCDKAが過剰なストレス応答を抑制する分子メカニズムや分子経路を考察する。
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Causes of Carryover |
<当該助成金が生じた状況、及び、翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画> 広範なストレスに対してppCDKA遺伝子破壊株の応答を調べたところ、高温馴化や乾燥ストレスに対する応答性を定量的に評価することが困難であり、研究の進展にやや遅れが生じた。したがって当初使用予定であった分子遺伝学的解析に使用予定の消耗品などの使用予定が遅れた。本年度は、高温ストレスに中心に置くことにより、当初の遅れた分を取り戻し、分子遺伝学的解析を進める。このために翌年度文として請求した助成金をその計画にしたがい合わせて使用し、研究を進める。
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