2010 Fiscal Year Annual Research Report
人工変異体を用いたヘモグロビンの引き金説の検証および酸素運搬分子メカニズムの解明
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19579002
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
安藝 弥生 金沢大学, 保健学系, 助教 (00452110)
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Keywords | ヘモグロビン / 酸素運搬機能 / 四次構造変化 / 引き金説 |
Research Abstract |
ヘモグロビン(Hb)は血液中の酸素濃度に応じて、その四次構造を酸素親和性の高いR型または酸素親和性の低いT型に変えることによって、効率よく酸素を運搬するとされている。この構造変化の引き金は、ヘム鉄と共有結合している近位Hisの位置が変化することだ(引き金説)とされているが、未だ推測の域を出ない。そこで、引き金説を検証するために遺伝子工学により合成した人工変異体、Proximal cavity mutant Hb (PCMH)(近位His→Gly)を用いて以下の実験を行った。 1) PCMH(β鎖近位His→Gly)の酸素運搬機能を今井式酸素平衡曲線自動記録装置により解析した。その結果、酸素親和性の指標であるP_<50>値は1.1mmHg、協同性の指標であるHill係数、n値は1.5となり、正常Hb(P_<50>=4.8mmHg、n=2.9)よりも酸素親和性が4.4倍高く、協同性は低いものの完全には失われていないことが判明した。 2) 円二色性分光法および共鳴ラマン分光法によりPCMH(近位His→Gly)の構造解析を行った。その結果、α鎖のヘム鉄-近位His間結合がないとHbの四次構造はT型に固定されるのに対し、β鎖の方では完全ではないが、酸素が結合・解離するに伴って四次構造が変化することが判明した。一方、α鎖、β鎖のヘム鉄と近位His間の結合がなくてもヘムの構造にはほとんど影響がなかった。 これまでの研究から、Hbが四次構造をT→R型へ変化させ、より多くの酸素を結合・運搬するには、α鎖のヘム鉄に酸素が結合してそのシグナルが近位His間を通してHbのグロビンタンパク質部分に伝わることが重要であり、すなわちα鎖のヘム鉄-近位His間結合が四次構造変化の引き金であることが示された。一方、β鎖のヘム鉄-近位His間結合はなくても四次構造変化は不完全ながらおこるので、引き金ではないことが示された。
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Research Products
(1 results)