2020 Fiscal Year Annual Research Report
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19H00796
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Research Institution | Miyagi University |
Principal Investigator |
土岐 謙次 宮城大学, 事業構想学群, 教授 (20423783)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金田 充弘 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (00466989)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 漆 / プロダクトデザイン / デジタルファブリケーション / 乾漆 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は年度計画のうち,主にこれまで培った乾漆造形技術を用いて,具体的な製品を制作する工程を想定した用途開発を中心に進めた.また,制作した乾漆の強度や耐久性,VOC評価など,実際に使用される環境における性能を評価した.【造形手法】①製品の大きさ・形状に合わせて,塩化ビニル樹脂,木材のCNC切削,3Dプリント原型,真空成形機等を組み合わせて設計通りの寸法で乾漆製品を製作する方法の最適化を検討した.②乾漆の積層工程においては,塩ビ等の型表面へのより均一で強力な密着を得るために,FRP造形に用いられるバキュームレジンインフュージョン手法を参考に,真空ポンプを利用した積層を試みた.③紙管を基材とした乾漆パイプを用いて,乗車可能な自転車のフレームを制作した.④非接触ICタグを内蔵し通信機能を有したクレジットカードサイズの乾漆カードを試作し,機能性を評価した.【評価試験】①乾漆とペーパーハニカムのコンポジット構造による座椅子を制作し,JIS規格の強度・耐久性試験を実施した. ②自動車内装に乾漆が使用されることを想定して,自動車メーカー協力のもと,7項目において性能評価試験を実施した.【ロボットアームを用いた漆諸作業】本年度は機材および安全柵の設置,安全講習の受講,基礎的な操作方法を取得した.【成果の発表・活用】①2020年10月台北駐日経済文化代表処台湾文化センターおよび国立台湾工芸研究発展センター主催の展示会にて乾漆製家具を中心に5点の成果物を展示した.②NPO法人が企画した乾漆製品の制作に対し助言を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①民間事業者と共に食事に用いるレンゲ製品を乾漆で置き換える方法を検討した.従来の伝統工芸手法と比較して表面品質は維持しつつも大幅に工数を減らすことによってコスト削減ができることが分かった.②乾漆による一定寸法のパイプや角材,板材等の規格品を揃えることでこれらを素材とした乾漆製品の製作が可能になる.本年度は乾漆パイプの制作を試みた.紙管を基材として外周に順次積層してゆく方法では,積層枚数によって外径が変化してしまうために規格寸法の管理が難しくなるが,制作は容易で実用上の強度も得られることから本年度は自転車のメインフレーム部に乾漆パイプを用いて乗車可能な自転車を制作した.ただし,金属や合成樹脂に比較して圧倒的に剛性が不足していることが分かった.③クレジットカード等のプラスチックを代替する素材として乾漆を検証した.印刷企業数社とNDAを締結し技術要件について乾漆を評価した.現時点では規格上の性能を満たさず直ぐに実用に供することは不可能であるものの将来的な活用の可能性を引き続き検証してゆく.④乾漆とペーパーハニカムのコンポジット構造による座椅子に対し,JIS規格の強度・耐久性試験を実施した.JIS S1203:1998区分3をクリアし一般的な使用環境において十分な強度・耐久性があることが分かった.⑤自動車企業とNDAを締結し自動車内装材として7項目の性能評価を行った.VOC試験では65℃ 2時間という条件において自然素材であるにも関わらずVOC基準を超過することが分かった.⑥本研究ではロボットに刃物を持たせるため,安全上必要な設備を追加導入することによりさらなる安全対策を行った上で最終年度での目標達成に向けての足がかりとした.【総括】造形技術開発については民間企業等との試作・評価試験等により当初予定よりも研究は進んでいる一方,ロボットアームを活用する手法については進捗が芳しくない.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は計画通り,引き続き用途開発とそのプロトタイプ制作および展示会等での研究成果の発表を行う.VOC評価試験では,ホルムアルデヒド・アセトアルデヒドの放出量が多かった原因が,漆に混練される植物性乾性油の熱による変性によるものと仮定して,植物性乾性油を含まない漆のみによる試験体を評価し,その影響を明らかにする. 座椅子の強度・耐久性試験に引き続き,本年度は一般的な椅子を制作しその強度・耐久性試験を実施する予定である.試験については民間企業に協力を仰ぎ,乾漆素材の優れた特性の訴求に努める. 通信機能を有したカードの制作手法を検討し,特許出願を行う. 本研究は乾漆の革新的な技術体系作りを目指しており,東京にてデザイン系展示会が多く開催される2021年10月末頃を目処に展示会にて研究成果の発表を行う.具体的には上記の椅子やこれまでの成果である乾漆製テーブル等を展示すると共に,研究内容のパネル等を展示し,研究発表の場とする. 本年度は,新規導入した6軸のロボットアーム制御による「漆掻き」の研究を進めていく.漆掻き職人が漆の樹幹に傷を付けて漆を採取する技術をリサーチし,再現することが目標である.樹幹に付ける傷の深さや角度,作業を行う速度など,非言語的で感覚的な職人の技法を再現するため,職人の動きをいかにパラメータとして取り出し,アームの動きとして調整していくかが課題となる.技術保持者の高齢化と継承者の減少などの課題を抱える伝統工芸の現場において,特定の技法を高精度で再現することは,職人技法の分析及び伝統技術の継承の一助となると考えている.
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Remarks |
「ハイブリッド・クラフト展 ークラフトの新たな未来」招待出展 台北駐日経済文化代表処台湾文化センター、国立台湾工芸研究発展センター https://www.axisinc.co.jp/building/eventdetail/859
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