2020 Fiscal Year Research-status Report
Research on the introduction process of artillery in the Warring States period of Japan.-About the influence of Islamic culture-
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19K01119
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Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
上野 淳也 別府大学, 文学部, 教授 (10550494)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大砲伝来 / 佛朗機砲(仏狼機砲) / 倭寇貿易 / 蛍光X線分析(金属組成) / 鉛同位体比(金属材料の産地推定) / イスラム教 / インドネシア共和国 / オスマン・トルコ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、インドネシア共和国のスラウェシ島の島嶼部に伝世している後装砲(佛朗機砲)から採取した金属サンプルの蛍光X線分析及び鉛同位体比分析を実施した。 金属組成に関しては、いずれも銅・錫・亜鉛の合金であり、広義の青銅製品であることが把握された。一定量の亜鉛の含有は、16世紀のヨーロッパ及び日本の青銅製大砲では確認されない現象である。これまでに15世紀のものと考えられているオスマン・トルコの大砲からは、一定量の亜鉛が検出されることが把握できており、この事象は亜鉛という金属の流通史及び真鍮という合金の歴史を考える上でとても重要な事象となる。また、この事象と東南アジアにおけるイスラム教布教の展開、すなわち布教と火器の展開に相関関係を見出せる可能性が指摘される。 鉛同位体比に関しては、いずれも華南産材料である可能性が高いことを示した。東南アジアでは、これまでフィリピンやマレーシア及びインドネシアで青銅製大砲からサンプリングを実施してきたが、同じ華南産金属でも、その産地は2つの鉱山に分かれることが把握でき始めた。また、先述の15世紀のものと考えられているルメリ=ヒサリ城塞博物館の青銅製の巨砲に用いられている金属材料に関しては、アナトリア(現トルコ共和国)よりは、トラキア(現ブルガリア共和国)の同位体比と近しいことを把握することができた。1451年に死去するムラト2世の版図が、アナトリアの北部と西部及びトラキアとペロポネソス半島の東半であったことからも、1453年にコンスタンティノープルを陥落させたメフメト2世の時代のものとされる大砲の金属材料の産地がトラキアである可能性が高いことは妥当性が高いと言える。 また、9月には、日本文化財科学会第37回大会で1600年にマニラ湾口に沈んだサン=ディエゴ号に積載されていた金属製品全般の鉛同位体比データを整理し共同発表をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、コロナ禍の中、東南アジア大陸部及びジャワ島における海外調査は断念せざるをえなかった。 コロナ禍の中にあって実施可能な研究として、一昨年度にインドネシア共和国のスラウェシ島及びその島嶼部に伝世している後装砲(佛朗機砲)から採取した金属サンプルの蛍光X線分析及び鉛同位体比分析を実施した。 蛍光X線分析による東南アジアの青銅製大砲の金属組成については、これまでの研究でヨーロッパ及び日本のものと比較して錫の割合が高く亜鉛を一定量含むことを把握していた。亜鉛金属の流通は、世界史的に16世紀に画期が見出され、その流通にはインド及び中国が重要な役割を果たしており、新たにムガル帝国や明の倭寇の活動に研究の焦点を加える必要が生じた。 鉛同位体比分析による金属材料の産地同定に関しては、華南産材料の中でも概ね2つのグループすなわち2つの産地に二局化する傾向を捉えることができた。これまで調査を実施したロシアのサンクトペテルスブルクの大友宗麟のものと比定される後装砲や、17世紀初頭の黒田長政や佐竹義宣のものに比定される後装砲の華南産材料もこのうちの1つのグループに集中する。また、15世紀代の製品と考えられているオスマン=トルコの青銅製大砲に亜鉛がすでに含まれ、且つトラキア(現ブルガリア共和国)の金属材料が用いられている可能性が高いことが把握された。これは当時のイスラム文化圏の西端の状況を把握する上で重要な成果となった。 また、イギリス東インド会社の文献記録から、鉛や鉄など様々な金属材料の流通時の形状を示す記載を多数採取すし、その成果の一端を駿府城跡の発掘調査成果報告書中に「駿府城後出土の金属製品(駿府城二之丸東御門の青銅製鯱ほか)の鉛同位体比」(共著)として入稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に関しては、コロナ禍の収束状況を及び治安状況を看取しながら、可能であると判断した場合には、ワクチン接種など感染に充分に気をつけて東南アジア大陸部のタイ及びカンボジアへの調査へ赴く。或いは、海外調査が無理であると判断した場合には、収束後を見据えて調査対象資料所有機関と連絡を取り、資料の写真の送付など調査協力の要請をおこなう。 鉛同位体比分析に関しては、歴史的脈絡の中で重要となる東ヨーロッパ及びトルコの鉱山から採掘された鉱石資料の鉛同位体比分析を実施する。また、オスマン=トルコから軍事的援助を受けていたスマトラ島のアチェ王国についての文献調査を実施する。 また、トルコのルメリ=ヒサリ博物館館長のSleyman Faluk Goncuoglu氏と、メフメト2世期の青銅製大砲について共著での論文発表を計画している。
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Causes of Carryover |
昨年度は、コロナ禍の中、東南アジア大陸部及びジャワ島における海外調査は断念せざるをえなかった。本年度はコロナ禍の収束状況及び治安状況を看取しながら海外調査へ赴きたいと考えている。しかし、コロナ禍収束後には航空運賃の高騰など不慮の状況変化が予測される為、東南アジア大陸部のタイ及びカンボジアへの調査へ赴く旅費に充てる事を中心に考えている。 また、鉛同位体比分析に関しては、歴史的脈絡の中で重要となる東ヨーロッパ及びトルコの鉱山から採掘された鉱石の鉛同位体比分析を実施する。
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Research Products
(2 results)