2019 Fiscal Year Research-status Report
様々な文化財に使用された彩色材料への赤外線画像による面的調査の検討
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19K01136
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Research Institution | Kyushu National Museum |
Principal Investigator |
秋山 純子 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部博物館科学課, 主任研究員 (10532484)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 赤外線画像 / 彩色調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は様々な文化財に使用された彩色材料の面的調査に赤外線画像を適用し、その有効性を明らかにすることである。本研究では歴史資料や浮世絵などの刷物、染織品等に使用された彩色材料に対して、赤外線画像を使った調査が有効であるか検討を行う。赤外線画像の適用事例を増やして、簡便かつ安全な調査法として確立することができれば、文化財を「活用」する際の情報提供に役立てることができると考えられる。そのためには赤外線画像で何がどこまで分かるのかをしっかりと押さえ、様々な文化財に対し赤外線画像の検証を重ねていく必要がある。 今年度はこれまでの赤外線撮影による調査結果を踏まえ、次につながるデータをまとめ、学会で発表することができた。これにより来年度、歴史資料の赤外線調査を系統的に進めていくことができるようになったと考える。日本文化財科学会では「赤外線画像を使った彩色材料の検討-顔料と染料を混合した場合-」というテーマで、顔料と染料を混合した標準となるカラーチャートと香川県立ミュージアムが保管している歴史資料である「博物図譜」の赤外線画像を比較検討し、科学調査結果と照らし合わせ発表した。顔料と染料を混合して使用することは歴史資料の彩色の場合にも多く見られ、赤外線画像と点分析を組み合わせることでどこまで明らかにできるのかを明確にすることが今後の調査に大きく関わるため、調査結果について学会で意見交換できたことは非常に有意義であった。 続いて韓国で開催された2019東アジア文化遺産保存学会大会において、先の博物図譜の調査結果を踏まえ、特に緑色に着目し、黄色と青色の顔料と染料をそれぞれ組み合わせたカラーチャートについて赤外線画像の検討と点分析の結果をまとめて発表した。藍と黄色の色材で塗られた箇所では、可視分光分析の結果から見分けることが可能であり、赤外線画像からも塗られた箇所の特徴を押さえることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は本研究の1年目に当たる。そのため、これまでに赤外線画像を使って検討してきた事柄について、今後につながるデータをまとめ学会発表することができた。学会では分析データに関して、彩色を見分けるための貴重なアドバイスもあり、それを踏まえてさらに踏み込んだデータ解析と赤外線画像との関係を国際学会で発表することができた。歴史資料の彩色は資料によって様々であるが、香川県立ミュージアムで保管管理されている「博物図譜」は顔料・染料が多種多様に使用され、江戸時代の歴史資料の彩色を知る上で、非常に貴重な資料である。今年度、博物図譜の中の衆鱗図を中心に特色のある青色に注目して調査を行った。その結果は来年度以降しっかりとまとめ、その他の帖に関しても同様に調査を進めてく予定である。 また、滋賀県大津市で江戸時代初期からお土産品などとして製作されてきた「大津絵」の彩色を調査する機会を得た。大津絵は民俗絵画としての位置づけだが、その当時入手可能な彩色材料でどのように描いたのか興味深いものであった。絵画自体には彩色はそれほど多くはないが、赤外線画像の解析から染料と顔料を上手に組み合わせて、彩色されていることが分かった。この時簡易型の顕微鏡も同時に使用して調査したが、顔料・染料の裏付けに非常に有効であったので、来年度の調査に生かしていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も引き続き、歴史資料である「博物図譜」の調査を行う予定である。しかし、来年度から所属が変わり、これまで使用してきた機材を使用できない状況にある。また、調査を検討していた九州国立博物館所蔵の歴史資料・浮世絵・染織作品等の調査が簡単にはできない環境に置かれることとなった。以上の状況により、調査対象の再検討を行う必要がある。今後の調査を念頭におきつつ、来年度はまずはこれまで行ってきた「博物図譜」の調査をできる範囲で進め、得られたデータを今後に行かせる形でまとめたい。 本研究の目的は様々な形態の文化財に使用された彩色材料の調査であるので、来年度は基準となる作品を選ぶことも進めていく必要がある。九州国立博物館から離れることになるため、視野を広く持ち、検討を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
赤外線撮影に使う消耗品等を購入予定であったが、今年度は必要なかったため、次年度以降必要に応じて購入する予定である。
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Research Products
(2 results)