2020 Fiscal Year Research-status Report
いじめを巡る学校・子ども・保護者関係の変容と重大事態調査を行う第三者委員会の課題
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19K21762
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小野田 正利 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60169349)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | いじめ / いじめ防止対策推進法 / 第三者委員会 / 重大事態 / 自殺 / 保護者対応 / 不登校 / 司法面接 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.研究代表者は、いじめ防止対策推進法の制定から7年が経過しながらも、その法律の理念および法規定と、実際の「いじめの態様」と学校現場の理解および対応力の間に、大きなズレがあるために、多くの混乱が生じていることを危惧し、どのようにして整合性を図ることが可能かについて研究を進めてきた。また「重大事態」の発生後に発足する第三者委員会が、被害者・加害者双方の多様な動きによって、十分な調査ができず、同時に様々な動きや圧力によって、専門性だけでなく、公平性・中立性を保てない実態の考察に努めてきた。 2.子どもの自殺は実に悲惨なものであり、その保護者にとっても悲しみにくれる出来事であるが、その原因や背景の究明は極めて難しい。ほぼ誰の目にも明らかな証拠や証言がある場合はともかく、このところ重大事態として増えているのが、「いじめ」はないとは言い切れないが、自死にどの程度まで関わっていたのかをめぐっての判断に困惑するケースである。また、重大事態には不登校も含まれるが、その原因として「いじめ」が主なのか、関係はしているが「別の要因」が大きなウエイトを占めることもあり、原因分析が極めて難しくなるケースが増加している。 3.研究代表者は、多くの第三者委員会調査報告書を入手して、それらの中から課題を抽出するだでなく、依頼を受けた教育委員会あるいは学校現場に直接に出向いて、重大事態となっている事案の詳細なデータの分析をおこなってきた。 4.これらを通して言えることは、いじめについての客観的な行為や被害者からのサインがあるにも関わらず、それを見過ごしてしまう教職員の意識と行動様式の問題だけでなく、いじめ防止対策推進法が「被害者」と「加害者」を対峙的に分け、その処遇においても正と悪のように対処することを規定していることで、児童生徒よりはそれぞれの保護者の側がいきり立ちながら、紛争状態になるケースが多いことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.「いじめ」に起因した自殺や不登校に関する裁判事例については、判決文を収集し分析につとめている。あわせて重大事態に関する第三者委員会の報告書については、公表された時点での収集のほか、すでに公開されていないものについては、情報公開請求制度を用いて、代表的なものの入手につとめてきた。 2.研究代表者は、四国地方のとある市の教育委員会、中国地方のとある市の教育委員会、中部地方のとある市の教育研究所、東北地方のとある市の教育委員会(※固有名詞の市を明記することは避ける必要がある)との連携のもとに、管轄下の10数校の小中高等学校を直接に訪問して、関係する教職員同席のもとで、それぞれの学校が抱えている「いじめ」問題と、いじめの「加害者」「被害者」の保護者が対立関係になり、いわゆる「保護者対応トラブル」に発展してしまっている事案のコンサルテーションをおこない、研究テーマの遂行につとめてきた。あわせて私立の中高等学校の数校の訪問をおこない、同じように具体的な事例データを収集している。 3.これらを通して痛感することは、子どもどうしの摩擦に過ぎないレベルのいざこざであり、子どもたちどうしでの修復がいくらでも可能なトラブルが、いじめ防止対策推進法の存在によって、それぞれの保護者がいきり立ち、教職員の側も手をこまねいているうちに、事態がより複雑化して「いじめ問題とは別の問題」にすり替わっていってしまっていることである。それは特に、SNSが絡む事案において顕著に見られる。 4.コロナ禍で今年の研修会の開催は減ることになったが、研究代表者は「いじめ認知」「いじめの聴き取り方」「それらの記録化」について、5か所の教育委員会や校長会で講演をしたほか、これらの研究成果について連載中の「内外教育」誌(時事通信社)において「いじめ法の放置から7年」というシリーズタイトルで、8回にわたって論文として発表してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.現行の「いじめ防止対策推進法」(2013年)は、悲惨ないじめによる自殺という道を選ばなければいけなかった子どもをなくすことを目的とした法律であり、その点において重要な意義を持つ。しかし他方で「いじめの定義」があまりにも広く、被害者の主観において「いじめられた」と思えば認定されるために、実際の学校現場においては、その発見・指導・再発防止において多大の困難を抱えている。 2.この法律の改正の必要性については、日本弁護士会も2018年年1月18日付けで「いじめ防止対策推進法『3年後見直し』に関する意見書」提言をおこなっているが、議員立法として成立したため、国会議員の間での改正の機運と責任意識が極めて低いという問題がある。このような「放置された事態」が長引くことによって、子どもどうしの関係も、その背後にいる保護者どうしの関係も極めてゆがんだものになることが増え続け、そして何より責務を負うべき教職員の間に「どのように処理していいのか」についての困惑を超えた疲労の色が濃くなっている。 3.本研究は、単に理念として「いじめの解消」を目指すための方策の提示ではなく、いじめ防止対策推進法の持つ実際上の限界と問題点を明らかにすることで法改正の方向性を展望し、重大事態の調査にあたる第三者委員会の抱える課題を鮮明にすることを目的としている。 4.最終年度としての2021年は、これまで進めてきた「現場主義」を継続し、実際に起きている事案の検討を通して、いじめをめぐる関係者の葛藤の内実をより精緻に分析し、あわせて収集した多くの第三者委員会報告書および判例の分析を進める。この研究の遂行および成果の公表にあたっては、大阪府のスクールロイヤーを務めている複数の弁護士のほか、第三者委員会委員としての経験が豊富なスクールカウンセラーの専門的知識の提供を受けながら進める。
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Causes of Carryover |
1.幾度にもわたるコロナ感染拡大に伴い、当初の予定通りの計画が実施できなかったが、本科学研究費の使用によって支出することなく、研究遂行が部分的に可能なものとなったため。 2.研究代表者が、並行して交付されている科学研究費の基盤研究(A)17H01021の研究遂行過程において、「いじめ重大事態の複雑化とトラブル≒保護者対応トラブル」に発展といった状況が多くなっており、それらの研究遂行と合体しながら、また比較検討を通しながら、本研究テーマとあわせた執行をしたため(図書資料購入費、出張旅費など)今年度については本研究費の執行は差し控えた。 3.研究の最終年度となる令和3年度は、研究の遂行と同時に、まとめをおこなう予定であるため使用計画を立てて遂行する。もっとも本研究は、実際の学校現場に出向いて、具体的ないじめ問題の複雑な構造と、第三者委員会の課題を明らかにすることを目的としており、特にコロナ感染症拡大が懸念され、研究代表者が居住する大阪においては、3度目の緊急事態宣言が出される状況(4月下旬)があり、予定通りいかない場合があることが心配される。
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Research Products
(17 results)