2023 Fiscal Year Research-status Report
蛋白質の分子進化に関するエネルギー準位統計を用いたペプチドの網羅的解析
Project/Area Number |
19K21857
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山中 雅則 日本大学, 理工学部, 教授 (20307698)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2025-03-31
|
Keywords | エネルギー準位統計 / 密度汎関数法 / ランダム行列理論 / 量子分子進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
トリペプチドとそれ以上の残基数のペプチド鎖を選択的に選び、分子動力学と量子化学計算を実行し、電子状態のエネルギー準位統計の網羅的な解析を行なった。20種類のアミノ酸を仮定するとトリペプチドは合計8000種、テトラペプチドは16万種類となる。これらの計算には現在使用している密度汎関数法の関数系cc-pVQZでは計算コストがかかりすぎるために、計算コストの低い関数系約10種類程度を検討した。トリペプチドで解析の終了した範囲では最高非占有軌道以上のエネルギーについては臨界準位統計となり、最低占有軌道以下のエネルギーについては依然として分子種に大きく依存する準位統計を得た。いずれのトリペプチドの準位統計にも特徴はなくこれらを分類することはできない。前年度に炭化水素鎖については鎖長と共に準位統計が系統的に変化する分子種が存在するという結論を得ており、ペプチド鎖についても同様に統計性が変化する可能性がある。しかしトリペプチドよりも残基数の大きいペプチドを網羅的に調べることは組み合わせ論的に分子種が増加するので困難である。このことから、網羅的な計算と並行して、10残基程度までのペプチドをサンプリングして計算を実行した。ペプチドの系統によっては、統計性がペプチドの伸長と共に系統的に明確に変化するという結果を得た。準位統計は伸長とともにポアソン的になる場合が多く、これは電子のアンダーソン局在の観点から自然な結果である。しかし本研究では相互作用が取り込まれているためにアンダーソン局在と単純に比較することができず、自明ではない結果である。サンプリングによる一部のペプチドにおいてではあるものの、多様な統計性を検出できたことは意義が大きい。これらは、本研究及び、テトラペプチド以上のペプチド鎖について網羅的に研究を実施することの実質的な根拠となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トリペプチドまでは、全ての分子種においてエネルギー準位統計はGOEに近い臨界統計が検出された。網羅的な解析を進める一方で、サンプリングではあるものの10残基程度までのペプチド鎖において、残基数の伸長と共に系統的に統計性が変化するペプチド群を見出すことができた。これは残基数を増やせば統計性が分化し、量子進化に関するランドスケープの描画が可能となることを意味する。これは当初の計画に合致するものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
トリペプチドとテトラペプチド16万種について本研究手法の手順に従って網羅的に解析を実行する。この場合、密度汎関数法において使用する基底を変更して解析数の向上を目指す。これらと並行して、サンプリングにより、10残基までのペプチドについても解析を実行し、エネルギー準位統計の分化の様子を把握する。網羅的な解析後の電子状態のデータについてデータベース化を行う。情報量が膨大となるために手作業による計算結果の分類が難しい面もあり、これらの分類や特徴の抽出についてはAIなどの使用を検討する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大発生以降2022年までは、全ての学会がオンライン開催となり、研究成果の発表用の旅費を全く支出することができなかったために当初から予算の執行が遅れ、2023年度も次年度使用が生じた。最終年度は、論文の英文校正料、論文投稿料、学会発表のための旅費として使用する。
|
Research Products
(7 results)