2019 Fiscal Year Research-status Report
ナノ粒子によるアップコンバージョンを用いた光遺伝学用完全埋植・光無線神経プローブ
Project/Area Number |
19K22098
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 徹 東北大学, 医工学研究科, 教授 (40417382)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
Keywords | アップコンバージョンナノ粒子 / オプトジェネティクス / 光無線神経プローブ |
Outline of Annual Research Achievements |
神経活動の非侵襲的記録や刺激は電気や磁気を用いて経皮的に行われてきた。現在は神経活動を光によって操作する光遺伝学が研究されている。神経活動の光操作手法のうち、LED又は光ファイバを搭載する神経プローブや光ファイバは侵襲的である。一方、Yb3+やEr3+をドープしたランタニドナノ粒子に近赤外光を照射し、多段階励起された系が基底状態に戻るときに放出する可視光で光操作する方法が提案されている。この方法は完全非侵襲だが、近赤外光の到達部位しか操作できず、大型動物の光操作や将来的な人の脳深部刺激への応用は不可能である。本研究は、(1)ナノ粒子によるアップコンバージョンを利用し経皮で近赤外光が届かない標的部位の非侵襲光操作を可能にする体内完全埋植型光無線神経プローブを実現すること、(2)大型動物の光操作や標的部位(脳)から離れた部位(手足等)への近赤外光照射による神経活動操作を可能にすることを目的とする。2019年度は、生体適合性フレキシブル材料中にUCナノ粒子を高濃度・均一拡散するプロセス及びUCナノ粒子発光領域の任意形状加工プロセス技術を確立した。このプロセス技術を用いてUCナノ粒子光無線神経プローブを作製し、近赤外光照射による青・緑・赤の各色の発光に成功した。これによりUCナノ粒子の標的部位への留置と近赤外光による非侵襲光操作を可能にする最も有効な方法を確立できた。これは光遺伝学の生体応用における重要な成果である。さらに、UCナノ粒子を混合した生体適合性フレキシブル薄膜表面に光結合器(グレーティングカップラ)構造を作製するプロセス技術を確立し、近赤外照射光の薄膜内伝搬にも成功している。今年度は、これらの成果を応用物理全般に関する国際会議で発表し、該当分科において最も高い評価を受けた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年に発表されたナノ粒子を使用するアップコンバージョンオプトジェネティクスは、近赤外光による経皮の光刺激を用いることで、有線による侵襲的光刺激は無くすことが可能である。しかし、近赤外光が届く部位しか標的にできないため、サルなど大型動物の光操作や将来的な人の脳深部刺激(Deep Brain Stimulation)への応用が極めて難しく、まだ治療等の実用化には至っていない。そのため、近赤外光の照射部位と標的細胞近傍の発光部位とを完全に隔てる構造を有する光無線神経プローブの開発を行っている。2019年度は、破砕分級処理によって粒子径を数ミクロンまで均一化したUCナノ粒子を、生体適合性フレキシブル材料でもある感光性塗布膜中に高濃度・均一に拡散するプロセス技術、及び任意形状のUCナノ粒子発光領域を神経プローブの任意領域に作製するプロセス技術を確立した。このプロセス技術を用いてUCナノ粒子光無線神経プローブを作製し、近赤外光照射による青・緑・赤の各色の発光に成功した。また、作製したUCナノ粒子光無線神経プローブを用いて動物実験を行い、マウスの脳内埋め込みと近赤外光照射実験を行って脳内で発光させることにも成功している。UCナノ粒子の標的部位への留置と近赤外光による非侵襲光操作を可能にする最も有効な方法を確立でき、これは光遺伝学の生体応用における重要な成果である。さらにUCナノ粒子を混合した生体適合性フレキシブル薄膜表面に光結合器(グレーティングカップラ)構造を作製するプロセス技術を確立し、近赤外照射光の薄膜内伝搬にも成功している。今年度は、これらの成果を応用物理全般に関する国際会議で発表し、該当分科において最も高い評価を受けた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度に作製したUCナノ粒子の青色発光は生体刺激には強度が不足していることが分かっている。今後はUCナノ粒子の高発光効率化を推進する予定である。高発光効率化のために、(1)UCナノ粒子の細径化と粒子径均一化、(2)UCナノ粒子へのプラズモン効果発現プロセス開発、(3) UCナノ粒子への色素増感効果発現プロセス開発等を行って行く。また、生体適合性フレキシブル材料で作製する神経プローブの表面に、垂直入射する近赤外光を水平方向に伝搬させる光結合器(グレーティングカップラ)を作製する。また、近赤外光が神経プローブ内を高効率で伝搬する構造とUCナノ粒子発光を神経プローブから高効率で外部に照射する構造の研究も行う。上記の高発光効率UCナノ粒子と新構造を有する光無線神経プローブを作製する。その後、実験動物に完全埋植し、照射部位(例えばマウスの足)と発光部位(マウスの脳)の距離を離した状態で光操作が可能かどうかを検証するシステムを作製する予定である。
|
Causes of Carryover |
■次年度使用額が生じた理由は、(1)光無線神経プローブの試作と測定によってプローブ構造の最適化を行う予定であったところを、FDTDシミュレーションソフトウェアを活用することによって最適化を行って試作回数を減らすことができたため、及び(2)2020年3月に国際シンポジウム(国内開催)と国内学会にて本研究の成果を発表する予定であったが、COVID-19の影響でそれらが開催中止となり出張を取りやめたためである。 ■次年度使用額は、(1)色素増感剤を用いた新しい発光効率向上プロセスの開発、(2)他研究機関において性能評価を行う光無線神経プローブの試作、(3)今年度開催中止となった成果報告会での発表、等に支弁する計画である。
|
Research Products
(3 results)