2019 Fiscal Year Research-status Report
イセエビ幼生が平面構造から3D形態へ変化する原理の解明
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19K22428
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 滋 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10252503)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 3D形態形成 / イセエビ / フィロゾーマ / クチクラ / 折り紙 / 変態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は平面的な形状のイセエビ幼生フィロゾーマが、脱皮後にエビの3D形態を持つプエルルスへ変態する原理を解明するのが目的である。実験開始時の仮説として、フィロゾーマ内部で作られるプエルルスのクチクラが、場所ごとに、特定の異方性を持って収縮(伸長)することで、3D形態が出現する、と予想したため、脱皮の瞬間のサンプルを得ることが最重要となる。イセエビ幼生の孵化を世界でただ一か所行っている三重水産研に協力を依頼している。 一番の問題は、幼生を成長させることが非常に難しく、特に、脱皮の瞬間のサンプルを得ることが極めて難しい点である。飼育装置の改良、餌の改善などにより、ある程度工場はしているが、現時点でも多数のサンプルを得ることは容易ではない。それでも、昨年度は2個体のまさに脱皮途中のサンプルを得ることに成功しており、それを使って、①CTによる3D形態の取得、②SEMによるクチクラの表面形態の観察、を行うことができた。 これまでの観察からわかったことを列挙すると、①頭部のクチクラは、フィロゾーマからプエルルスに変態するときに、70%ほどの大きさに収縮する。②収縮の方向、度合いは、部位によって異なる。③収縮の異方性と、頭部に存在する中腸線の方向に関連がある。④フィロゾーマの脱皮直後で、またプエルルスの形態に移行していないクチクラには、方向性のある皺が存在する。 この④が極めて重要である。研究開始当初は、皺のような物は顕微鏡で現認できなかったため、クチクラの伸長が変形の主要因だと考えていたが、方向性のある皺の存在は、エビの変態にもカブトムシと同じ折り畳みの原理が使われていることを示唆している。 今後は、今回得られたサンプルと比べて、わずかに早い、あるいは遅い時期のサンプルの取得しデータを集めるとともに、皺の方向性から3D形態の変化を説明する数理モデル構築を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
得られるサンプル数が少ないことは当初から予想してたことであるが、2個体とはいえ、もっともキーになるタイミングのサンプルが得られたことは、幸運であった。さらに、そのクチクラの表面に皺があったことから、それが伸展したときの異方性と拡大率が、ある程度推測できる。研究の開始時には、伸展の異方性を推測するのに、TEMによる解析を行い、キチン分子の異方性を調べる必要があると考えていたので、単にSEMの観察でそれを代用することができるのであれば、大いに作業が短縮できるはずである。 また、研究開始時には、CTにによるイメージングは、サンプルが薄く、密度が低いため、はっきりした3D像を得ることが難しかったが、ヨードやクロムを沈着させることで、かなりはっきりとしたデータを取れるようになったことも、重要な進展である。 さらに、中腸線との関係が明らかになりつつあるのも大きい。中腸線は体の中心部から左右に、等間隔に延びる分泌腺であり、フィロゾーマ頭部に認められる唯一の器官である。実験開始時から、中腸線が何らかの方向性を決める指標になっている可能性を考えていたが、SEMで見つかった皺は、中腸線と垂直になる傾向があるようで(まだはっきりしていない)今後、中腸線と伸展の異方性の関係が研究の中心となると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、引き続き脱皮時のサンプル獲得を三重水産研の協力の下に行うほか、得られたサンプルに関して、以下のポイントを中心に研究を進める。 皺のマッピング:SEMによりフィロゾーマのクチクラ表面に認められた皺であるが、まだその全体像が解っていない。凍結乾燥のサンプルは、複雑に褶曲しているため、一つの視野の像で、全ての領域の皺の方向を見ることはできない。そのため、フィロゾーマの皺構造の全容を明らかにするには、多数の検体が必要になる。現在、2個体しかない状態であるが、それで、解析をできるだけ進めるとともに、追加のサンプルが得られれば、それについてもSEM解析を行う。 厚みの測定:フィロゾーマからプエルルスへの変態時には、皺の伸展が起きるが、全体的に小さくなる。この全体的な収縮の原因を明らかにする必要がある。現在の仮説では、皺の伸展が起きた後に、クチクラ全体が「等方向」に縮小すると考えているが、その証拠を得たい。ひとつの方法は、TEMにより、クチクラの厚みを縮小前後で測定することであるが、現在、そのためのサンプルを得られていない。とりあえずサンプル待ちの状態となるが、TEMで部位ごとの厚みの測定を行うための技術開発を進める。 変形の再現モデル作成:皺のマッピングができれば、伸長の異方性が手に入ることになり、あとは、それで、平面からエビの3D形態への変態が説明できるかどうかが焦点になる。これには何らかの物理モデルが必要となるが、計算機内でデジタルシミュレーションを使って行うか、異方性のある伸展が実現できる素材を使ってアナログシミュレーションを使って行うかを検討中である。特にアナログシミュレーションは、一般的に説得力が高いので、シリコンゴムなどの材料をつかって作りたいと考えている。
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Causes of Carryover |
三重水産研と協力して行っている幼生の生育状態が思わしくなく、サンプル数が少なかったことが主な原因である。そもそも、イセエビの養殖は、世界でも成功例が無く、極めて難しいため、例年、生育状況にムラがあるのが常で、何か失敗があったということでは無い。サンプル数が少なかったため、予定していたTEM解析を行うことができず、その分の研究費が繰り越すこととなった。今年は、その分の資金を、飼育状況の改善に使用することで、多数のサンプル獲得を目指す。 万が一、今年もサンプル数が限られた場合、より高額であるが、精密な3Dデータを得ることができるspring8n放射光によるCTデータ取得を試みる予定である。
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