2021 Fiscal Year Research-status Report
イセエビ幼生が平面構造から3D形態へ変化する原理の解明
Project/Area Number |
19K22428
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 滋 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10252503)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | 形態形成 / 3次元 / フィロゾーマ / 脱皮 / イセエビ |
Outline of Annual Research Achievements |
サンプル収集に関して:装置の改善と、研究協力鎖の献身的な作業により、2020年度の年明けから、かなりの数のフィロゾーマが育ち、サンプル収集が可能な状態になった。現在までに少なくとも、脱皮直前の個体2,変態期前期と後期が数個体ずつ、直後の個体3を生きた状態で採集し、直後にアルコール固定して資料にすることに成功している。さらに、その後も脱皮中と思われる死亡個体を30程度確保することに成功しており、これで、一応、サンプルの収集はできたとして、以降は、CTと電顕による解析に移行している。 形態の解析:最初に行う解析は、脱皮後のプエルルスのクチクラ表面の微細構造を詳細に観察し、特徴的な構造を見つけることで、脱皮前と後で、どの様な収縮・伸長が起きたかのマップを作ることであったが、残念ながら見つからなかった。次に、脱皮途中のクチクラには、予想しなかった折り目構造が存在することを見つけた。折り目の伸展は、平面からドーム状への変形に寄与していると考えられ、現在物理シミュレーションによる解析中である。 物理モデル:平面の位置特異的収縮による形態形成原理を理論的に理解するために、シュリンクフィルムに収縮しないプラスチックを張り付けた構造を3Dプリンタで作成するという物理モデルを使った手法を作ることを思いつき、現在、進行中である。今のところ、単純な凸形状とガウス曲率が負の馬の鞍形状などを安定して作ることに成功している。今後、さらに細かいプラ構造を使うことで、任意の複雑な3D構造を作る手法として確立させたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サンプルの取得に関して:サンプルは前年度とその後の飼育により、ある程度の個体数を得ており、鋭意形態解析中である。 形態の解析に関して:予期しない折り畳み構造が存在したこと、それが、平面からドーム状構造への変化に寄与して言う可能性が高いことなどが解っている。CTの解析では、残念ながら、フィロゾーマとプエルルスの変形をたどれるような、基準点となる構造の発見には至っていないが、さらに解像度を上げて、今年度は電顕で行うので、発見できる期待がある。 収縮による3Dモデルの形成に関して:これに関する研究が、今年度は一番進んだ。物理シミュレーションにより、位置特異的な収縮を入れて変形を予測する方法と、3Dプリンタを使った物理モデルの2つを現在進めているが、今のところ、後者の方が、面白い結果が出ている。クチクラの収縮を模すためには、市販のシュリンクフィルムを使用する。一部の領域でフィルムが特定の方向に収縮させないために、3Dプリンタで作成したプラスhシックかラバーを接着し、その後、熱をかけてフィルムを収縮させると、興味深い3D形態を安定して作成することが可能であることが解った。これは、工業技術としても面白いため、大手の化学会社と話したところ、ジョイントで研究を進めるため、定期的に会合を持つことになった。ただ、残念ながら、コロナの第6波と会合の予定日が重なってしまい、2回目以降の会合(共同実験)は行えていない。
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Strategy for Future Research Activity |
形態の解析に関して:フィロゾーマとプエルルスの変形をたどれるような、基準点となる構造を電顕による詳細な観察により探す努力を続ける。20匹程度見つかれば、フィロゾーマのクチクラのどの部分が収縮/進展しているかのマップが描けるはずであり、それは、物理モデルの検証にも役に立つはずだからである。この作業は、フィロゾーマの内側にできている、薄い新クチクラ膜に対して行わねばならない。外殻のクチクラ(これも非常に薄い)を手の操作で取り除く必要があり、なかなか進展しないが、新大学院生が研究に参画してくれたので、徐々に進むことを期待している。 物理モデルの作成に関して:このプロジェクトのゴールは、イセエビの形態形成に発想を得た、新しい3D形態の作成手法を開発することであり、現在、作成している物理モデルを完成させることが重要であると考える。今のところ、ごく簡単な3D形態しか作ることに成功していないが、それは、材料の制約が大きいからであると考えている。より適した強度と収縮率を持つシュリンクフィルムのサンプルを入手する目的で大手化学会社と接触したところ、先方も興味を持ったため、無償で、多数のサンプルを提供してもらっている。また、3Dプリンタのフィラメントには、多数の種類があり、それらを試していくことも、今後の課題である。化学会社とは、今後も定期的な勉強会/研究会を持ち、共同で技術を開発していく体制ができつつある。来年度の目標として、ある程度急に近いが、特徴のある構造(例えば、車のボディ)を作れるようになることを目指している。
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Causes of Carryover |
2020年にイセエビのサンプル取得が上手くいかなかったことにより、全体的な遅延が生じている。また、物理モデルに作成に関して、セキスイ化学とのジョイントで進めることになっており、昨年度の秋から、コンタクトを取ってきたが、コロナの第6、7波により、現在までに、ジョイント会議、および実験が1回しか行えていない。会社側からは、物理モデルを作るために必要な材料の提供を受ける予定になっており、それらの購入費、最適な3Dプリンタやスキャナの選定などができないままになっている。また、物理モデル作成の補助をする技術員の選定もできないでいたために、翌年度への繰り越しが生じた。 そのため、繰り越し分の使用予定は、人件費、電顕観察のための消耗品、物理モデル作成のための材料購入費、3Dプリンタなどになる予定。
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Remarks |
協力企業との関係があり、現在発表を控えています。
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