2019 Fiscal Year Research-status Report
誰/何が思考するのか――バタイユ思想を手がかりとした思考と主体についての考察
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19K23058
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
横田 祐美子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (30844170)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 思考 / 主体 / ジョルジュ・バタイユ / ジャン=リュック・ナンシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、バタイユ思想を手がかりに、フランス現代思想における思考と主体の関係を問い直すことで、「主体」批判の内実を解明し、失墜した「主体」概念の地位の見直しとその再評価を行うことである。 2019年度はバタイユ思想の知的・哲学的側面に光をあて、彼の認識論における主体の果たす役割を明らかにした。具体的には、バタイユが理性的な主体の在り方を否定しているかのように論じてきた先行研究とは異なり、彼が提唱する「非‐知」という特異な思考形態が推論や言説といった理性の主体的な行使に支えられていることを指摘した。それによって、知とは対立するものだとされてきた彼の思想のキーワード「非‐知」が、知の否定ではなく、むしろ理性の過剰として、理性の延長線上に位置づけられる新たな可能性を明示した。こうした成果が含まれる著書『脱ぎ去りの思考――バタイユにおける思考のエロティシズム』(人文書院)が2020年3月に刊行された。 また、バタイユについて論じたジャン=リュック・ナンシーの論考「外記」にもとづき、言葉を書き記すことと有限性の関係に着目するなかで、ナンシー哲学における主体概念の輪郭線を浮き彫りにした。具体的には、言葉の書き込みという場面において、主体はそのつど制限づけられた意味を書き込むのだが、まずもってそのような意味の限界を提示することなしには、意味作用のシステムを超え出る意味を他者に伝えることができないため、ナンシーにおいても「主体」がたんに棄却された概念ではないことを示した。この成果は2020年3月に日本フランス語フランス文学会関東支部大会で発表した(新型コロナウイルス感染拡大の影響から学会の現地開催中止となり、発表音声ファイルの提出という代替措置により口頭発表した)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的をよりよい仕方で達成するため、当初の研究実施計画に記載した文献とは異なる文献をも考察対象として取り上げることとなった。とはいえ、2019年度はバタイユと彼の影響を受けたナンシーにおける主体と知的行為との関係が示されたことで、バタイユを導きの糸としてフランス現代思想における「主体」概念の捉え直しを行うという計画に沿って研究そのものは問題なく進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、その開始時点から新型コロナウイルス感染拡大の影響により、発表採択済みであった学会の中止・延期などが重なっている。そのため、当初の研究実施計画に記載した予定どおりには成果発表が行えない可能性が高く、発表媒体や時期については変更を余儀なくされている。特に口頭発表の機会が今年度はほとんど見込めないため、論文投稿等に切り替えることで事態に対応していく予定である。 今年度の研究内容としては、前年度にバタイユ思想の影響下で「主体」概念を完全には放棄していないナンシーを取り上げたため、今後はフランス現代思想における主体批判の文脈をあらためて整理したうえで、「主体」という語の保持とその展開可能性について考察をくわえることとする。
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Research Products
(2 results)