2019 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the Ceramic Production System in the Classic Maya
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19K23099
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
今泉 和也 北海道大学, 文学研究院, 専門研究員 (90850446)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | マヤ文明 / 古典期 / ティカル遺跡 / 土器生産体制 / 発掘調査 / 一般層の住居 / 特殊な埋葬儀礼 / 火葬 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は当初の計画通り、グアテマラ共和国北部、ペテン県に位置するティカル国立公園(ティカル遺跡)にて発掘調査を実施した。調査対象はエリア4Fにおける建造物グループ4F-19,20と最寄りの湿地帯である。 この建造物グループは以前の資料調査によって土器焼成址と思われる遺構や土器生産活動の証拠となる遺物群が発見されたポイントに最寄りの、現存する住居マウンド群である(真に最寄りの住居群は近現代の建築によって現存しない)。粘土資源や燃料となる木材資源にアクセスが容易な湿地帯に隣接するこの建造物グループにおいて、土器生産活動を示す遺物が出土することが期待されたが、今回の調査では十分な量の、明確な証拠と成り得る遺物は検出されなかった。また以前に検出した土器焼成址と思われる遺構の使用年代は主に古典期前期であるのに対し、対象住居マウンドは古典期後期に居住開始されたと考えられ、時期的にズレがあることが分かった。 一方でこれまでのマヤ研究において焦点を当ててこられなかった一般層住居を調査することで、当時の一般層の人々の暮らしの理解に繋がったことが今年度調査の大きな成果であると言える。1点目に神殿や宮殿といったエリート層の建造物壁面が赤色塗料で塗られていたことが分かっているが、ティカルにおいて一般層の住居の壁面も漆喰で覆われ、赤色塗料が塗られていた証拠を発見した。2点目に古典期マヤでは通常行われない火葬の事例を検出した。これも一部のエリート層に見られる葬制である。今回のこれらの発見は土器工人等の職能集団がミドルクラスを形成した可能性を示しており、既に指摘されている当該説を支持するものになるだろう。 また湿地帯におけるピットでは、多量に堆積した複数の粘土層を確認することができ、それぞれのサンプリングを行った。今後、成分分析と土器胎土の成分との比較が課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通り、ティカル遺跡のエリア4Fにおける建造物グループや粘土の採取地と考えられる湿地帯において発掘調査を実施した。しかし本研究課題が著しく進展していない理由として以下の2点が理由として挙げられる。
①対象とした建造物の内のひとつである建造物4F-19では設定したピットが建造物の中心軸からやや北方向に外れてしまい、墓などの遺構の検出ができなかったためである。そのため次年度に再調査する必要がある。しかしながら今年度のピットでは良好な3枚の床面を含む建築層位を十分に確認しているため、次年度の同建造物の中心部に対する調査は速やかに行われるだろう。
②今回の調査では土器生産活動を直接的に示し得るような明確な遺物は出土しなかった。次年度以降の発掘調査が進む中で、これまでに確認してきたような、あるいは先行研究で指摘されているような土器生産活動の証拠となる遺物の検出を目指す必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の調査対象は2つある。ひとつは、今年度に調査したティカル遺跡、エリア4Fにおける建造物4F-19を再度発掘することである。この建造物では保存状態の良好な3枚の床面を検出することができたが、住居内の中心部からみてやや外側を掘り下げる形となった。次年度は今年度に掘り下げたピットの南側約50cm程度の位置に再度ピットを設定し、墓の検出を目指す。可能性として、建造物4F-20のように母岩である石灰岩層直上に墓ないし、儀礼行為の痕跡を検出できる見込みである。 もうひとつは同じエリア4F内に位置する建造物グループ4F-39~41,44にて調査を実施することである。今年度の発掘調査区に最寄りのやや大きめの住居マウンド群であり、先行研究によって土器生産活動の場として適していると指摘されている立地条件を有している。この住居群は同エリアの土器生産の場に適したものの中で最も大きいものであり、これまでの調査で出土したような土器生産活動の証拠となる遺物を副葬した保存状態の良好な墓が検出されることを十分に期待できる。
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