2019 Fiscal Year Research-status Report
脊髄における視床下部ホルモン受容体およびCaチャネルが関与する疼痛受容機序の解明
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19K23836
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
元嶋 尉士 産業医科大学, 医学部, 非常勤医師 (50748340)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 疼痛 / 脊髄後角 / 介在ニューロン / オキシトシン / プレガバリン / mRNA / RNAscope |
Outline of Annual Research Achievements |
脊髄後角における疼痛の受容・調節機序の解明は重要な学術的・医療的課題である。脊髄後角ニューロンの大多数は脊髄後角内で神経回路を完結する介在ニューロン(interneuron: IN)であり、興奮性・抑制性INが疼痛の受容・調節に関与している。視床下部ホルモンのオキシトシン(oxytocin: OXT)や神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン(pregabalin: PGB)は脊髄後角INを介して疼痛を抑制する可能性があるが、その作用機序の詳細は不明である。 本年度は、ラット脊髄後角切片を用いてRNAscopeテクノロジー(Advanced Cell Diagnostics社: ACD社)によるmRNAの可視化を行い、OXT作用部位であるOXT-RのmRNAもしくはPGB作用部位であるCaチャネルα2δ1サブユニットのmRNAを発現するINが興奮性INである割合を明らかにすることにより、OXT-RおよびCaチャネルα2δ1サブユニットが関与する脊髄後角神経回路を明らかにすることを目的とした。ラット新鮮凍結腰髄切片におけるOXT-R mRNA、Caチャネルα2δ1サブユニットmRNA(Cacna2d1 mRNA)、およびSlc17a6 mRNA(グルタミン酸産生興奮性ニューロンのマーカー)をRNAscopeテクノロジーを用いて異なる蛍光波長で標識し、共焦点レーザー顕微鏡(LSM880[ZWEISS社])を用いて画像撮影をした。得られた画像より脊髄後角におけるOXT-R mRNA陽性ニューロンに占めるSlc17a6 mRNA陽性興奮性INの割合もしくはCacna2d1 mRNA陽性ニューロンに占めるSlc17a6 mRNA陽性興奮性INの割合を解析したが、上記手法により蛍光標識されるOXT-R mRNA、Cacna2d1 mRNA、およびSlc17a6 mRNAが非常に僅かであり、脊髄後角ニューロンの特性を網羅的かつ半定量的に評価することはできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、ラット脊髄後角新鮮凍結切片におけるOXT-R mRNA、Cacna2d1 mRNA、およびSlc17a6 mRNAをRNAscopeテクノロジーを用いて異なる蛍光波長で標識することに取り組んだ。また、蛍光標識後の切片を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて撮影し、OXT-R mRNA陽性もしくはCacna2d1 mRNA陽性ニューロンに占めるSlc17a6 mRNA陽性興奮性INの割合を解析することに取り組んだ。 OXT-R mRNAおよびSlc17a6 mRNAに対応したプローブはACD社が提供する既成品を使用することができたが、Cacna2d1 mRNAに対応するプローブは新規に設計および製造する必要があったため、プローブの準備に時間を要した。また、良好な脊髄新鮮凍結切片を作成するためのプロトコールやmRNAを良好に標識するためのプロトコールの検討にも時間を要した。 ACD社の提供するマニュアルおよびACD社から個別に得られたアドバイスをもとにラット脊髄新鮮凍結切片においてOXT-R mRNA、Cacna2d1 mRNA、およびSlc17a6 mRNAをRNAscopeテクノロジーにて蛍光標識し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて画像を取得・解析した。その結果、上記手法により蛍光標識されるOXT-R mRNA、Cacna2d1 mRNA、およびSlc17a6 mRNAは非常に僅かであることが判明した。過去の免疫組織化学的染色法や電気生理学的手法を用いた研究結果から考えると、本手法では各mRNAを発現するニューロンを正確に可視化・半定量化することができていない可能性があると思われた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、ラット脊髄新鮮凍結切片においてOXT-R mRNA、Cacna2d1 mRNA、およびSlc17a6 mRNAをRNAscopeテクノロジーを用いて蛍光標識することに取り組んだが、本手法により脊髄後角におけるOXT-R mRNA陽性ニューロンに占めるSlc17a6 mRNA陽性興奮性INの割合もしくはCacna2d1 mRNA陽性ニューロンに占めるSlc17a6 mRNA陽性興奮性INの割合を正確に解析することは難しいと考えられた。そのため、次年度は、ホルマリン固定組織切片を使用することやACD社が提供する非蛍光標識のRNAscopeテクノロジーを使用することなどを検討している。また、免疫組織化学的染色法を用いたタンパク発現の解析にて脊髄後角ニューロンの特性を解析することも予定している。具体的には、ホルマリン固定腰髄切片において抗OXT-R抗体、抗Caチャネルα2δ1サブユニット抗体、および抗Pax2抗体(抑制性INのマーカー)を用いて免疫組織化学的染色を行い、脊髄後角におけるOXT-R 陽性ニューロンに占めるPax2陽性抑制性INの割合もしくはCaチャネルα2δ1サブユニット陽性ニューロンに占めるPax2陽性抑制性INの割合を計測して脊髄後角におけるOXT-RおよびCaチャネルα2δ1サブユニットを発現するINの特性を検討する。また、疼痛モデルラットを作成して、脊髄後角ニューロンにおけるOXT-RおよびCaチャネルα2δ1サブユニットの発現量を解析することで、疼痛病態に対する脊髄後角OXT-RおよびCaチャネルα2δ1サブユニットの関与を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、RNAscope専用ハイブリダイゼーションオーブンのレンタル使用が可能となったため、購入を予定していたハイブリダイゼーションオーブンを購入しなかった。また、共焦点レーザー顕微鏡システムに付属した画像解析ツールを使用したため、購入を予定していた画像解析用コンピュータを購入しなかった。さらに、本年度の進捗状況に伴い免疫組織化学的染色法を用いた解析を行わなかったため、免疫組織化学的染色法に必要な試薬・物品を購入しなかった。以上の理由により、次年度使用額が生じた。次年度は、必要に応じてハイブリダイゼーションオーブンおよび画像解析・データ解析用コンピュータを購入する予定である。また、免疫組織化学的染色法を用いた実験に必要な各種試薬・物品を次年度に購入予定である。
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