Research Abstract |
本研究は, 多倍長数値計算をもちいる高精度数値計算により, 逆問題および非適切問題に対して信頼できる数値計算手法の提案をおこなうものである. 平成20年度は, 典型的な非適切問題として知られるLaplace逆変換の問題に取り組み, 高精度な数値計算法の提案をおこなった. 従来は, Bromwich積分と高速Fourier変換をもちいる手法や, 特異値分解にもとづく手法が提案されてきた. いずれもIEEE754倍精度での10進16桁程度の精度での数値計算を目標としており, 高精度な数値計算手法として決定的なものとはならなかった. 本研究では, 再生核Hilbert空間上でのTikhonov正則化法の適用の適用という従来とは独立したアプローチをとった. また, 数値計算手法の点からも, 多倍長数値計算を利用するという既存の計算機アーキテクチャに捕われない手法をもちい, 極めて小さな正則化パラメータをもちること, さらに指数的に減衰する重みをもつ函数空間上での高精度数値計算の二点を実現し, 高精度なLaplace逆変換を実現した. また, 材料工学や金融工学に現れる具体的な問題で, 商用の数式処理ソフトウエアでは解が得られないような場合に対しても, 本研究で提案する手法により, 高精度な数値計算結果を得るに至った. また今後, 材料工学や地球物理学など応用分野での有効性について検証をおこなうことを考えている. また, 本手法は絶対連続な函数による再生核空間をもとに, Tikhonov正則化による近似をおこなっているが, この再生核に含まれない不連続な函数に対しても高精度な近似を与えることがわかった. これは, 多倍長計算をもちいる際の特徴的な近似理論であると考えられ, 今後, 更なる研究の進展が必要であると考えている.
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