Research Abstract |
本年度は,典型的な非適切問題のひとつである熱伝導現象に関する問題に対し,多倍長数値計算環境下でのTikhonov正則化法の適用をおこなった.先行研究として適当な仮定のもとでの逆問題としての解一意性は証明されていたが,本研究による手法で,その数値的構成に成功した.多くの逆問題において従来は,解の一意性と条件安定性に対する数学解析が主流であり,解の高精度な数値的再構成の結果は殆どなかった.本研究の成果は,先行研究の数学解析の結果を考慮して解の数値的再構成の一例であるが,典型的な例に対する再構成であり,今後,精密な解析が必要であるものの,他の逆問題に対しても同様のアプローチによって高精度な数値的再構成が可能であることを示唆するものと考えている. 具体的には,熱核をもちいることにより,観測データを逆問題の解のLaplace変換として表し,そのLaplace実逆変換を多倍長計算環境下で数値計算を実行した.通常の倍精度計算環境では10進法で16桁程度の精度での数値計算がおこなわれるため,問題の非適切性および丸め誤差に起因する数値誤差の影響で高精度化は実現され得なかったが,多倍長計算によりこれらの問題点を克服し,高精度な再構成に成功した. Laplace逆変換の手法は様々に提案されているが,多くはBromwichの公式として知られる複素積分の離散化手法に基く.そのひとつとして近年,ソウル大学校(韓国)のDongwoo Sheenらによるアルゴリズムが高速化と高精度の両面を達成している.本年度はSheen教授との共同研究を開始し,本研究で提案する実逆変換と複素積分を比較・検討し,それぞれの特徴を報告した.
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