2020 Fiscal Year Annual Research Report
Phenomenology of Altered Consciousness: An Interdisciplinary Approach through Philosophy, Mathematics, Neuroscience, and Robotics
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20H00001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田口 茂 北海道大学, 文学研究院, 教授 (50287950)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 正俊 北海道大学, 人間知・脳・AI研究教育センター, 特任准教授 (30370133)
西郷 甲矢人 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (80615154)
宮園 健吾 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (20780266)
谷 淳 沖縄科学技術大学院大学, 認知脳ロボティクス研究ユニット, 教授 (60425634)
田中 彰吾 東海大学, スチューデントアチーブメントセンター, 教授 (40408018)
山下 祐一 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第七部, 室長 (40584131)
西尾 慶之 東京都立松沢病院(臨床研究室), 精神科, 医師 (90451591)
武内 大 立正大学, 文学部, 教授 (10623514)
富山 豊 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (60782175)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 意識 / 現象学 / 圏論 / 神経科学 / ロボティクス / 意識変容 / 精神疾患 / 時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、全体ミーティングを一月に一回のペースで12回開催した。これにより、各メンバーの研究を互いに深く知ると同時に、相互作用による新たなアイデアの生成に力点を置いて共同研究を行った。とりわけ、現象学系の哲学に対して神経科学・ロボティクス分野の知見が関連づけられ、また逆に神経科学・ロボティクス分野の実証的研究成果に対して現象学的な観点から解釈や整理がもたらされるという相互作用が生まれた。両者が一体化したところに、数学、とりわけ圏論の観点から、両者を包括する形式化のアイデアがもたらされた。吟味の結果、そのなかで最も有望だったのが圏論の「モノイド」の構造であり、これを用いて、精神現象一般の遷移パターンや、正常意識の遷移パターンと、変容した意識(精神疾患)の遷移パターンとを対比して捉える可能性が示された。 この方向性をさらに追究するための方途を議論した結果、まず二つの方向性に研究を集約していくことが有益であるという結論に至った。一つは意識変容、さらには意識一般の最も基礎的な現象形式である「時間性」を、圏論的な観点から再定式化するという研究方向である。現象学では、把持・原印象・予持といった基礎概念を用いた時間論が多く議論されてきたが、圏論的観点から現象学的時間論を根本的に再吟味するならば、これをより明確化し整理して示すことが可能であるという見通しが示され、次年度はこの方向性を追究することになった。もう一つは、サリエンスの多義性と構造を整理して意識変容におけるその意義を明確化するという方向性である。統合失調症をはじめとする意識変容の事例と関連づけつつ、ここで浮上してきたのは、サリエンスと自由エネルギー原理およびアフォーダンスとの関連である。次年度はこの方向での共同研究をより深めていくことでより具体的な成果を生み出し、本研究課題の目的達成に近づけていくという方針が決定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全く異なる分野からのメンバーが集まっているにもかかわらず、根本的な関心の共有によってきわめてスムーズな意見交換が可能になり、初年度から深く踏み込んだ議論が可能になった。哲学(現象学)、数学(圏論)、神経科学、ロボティクスのいずれの分野が欠けても実現しえないきわめて融合的な知見が成果として得られた。まず挙げられるのは、時間論を一方で意識変容から、他方で圏論から吟味し直し、その根本的な再定式化を一定程度進めることができたという成果である。もう一つの成果として挙げられるのは、上記の諸学問が交差する地点で意識変容を考えていく際に、「サリエンス」が一つの鍵として浮かび上がってきたことである。共同研究を通して、自由エネルギー原理とアフォーダンスという参照軸の重要性が明らかになり、これらを通して、サリエンスの本質に迫る新たな視角が得られた。以上のように、(1)「意識変容」をめぐる哲学的・現象学的解明においては、時間論の基礎的重要性が学際的・多角的に吟味され、(2) 神経科学的・精神医学的解明においては、同じく学際的にサリエンスの重要性と構造が明確化され、(3) さらにこの双方を圏論的観点から整理し再定式化していく可能性についても、一定の見通しが得られた。このような成果を共著論文の形に落とし込む作業も開始することができた。 さらに、繰越金を用いて、国際ワークショップを準備し、2022年1月に開催することができた。ドイツ・ハイデルベルク大学のThomas Fuchs教授を招き、現代の経験科学(とりわけ精神医学)にとっての現象学の意義について、学際的・国際的なディスカッションを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、2020年度に明確化してきた方針、すなわち第一に時間論的観点から意識変容についての学際的考察を深めるということ、第二に自由エネルギー原理とアフォーダンスを参照軸としつつ「サリエンス」の現象について学際的考察を展開するということ、この二方向から意識変容の構造に迫るということが、さしあたり意識変容について原理的観点から考察するために必要であると考えられる。このそれぞれについて分科会を設置し、各分科会で集中的に議論を深めていく。分科会での議論は、適宜全体会議を開いてメンバー全員で共有する。各分科会では、ディスカッションの内容を共著論文に落とし込むことを目指す。これによって、より具体的な成果にフォーカスした議論が展開できる。 コロナ感染症のためこれまで対面での会議は開けずにいるが、オンラインでの会議がうまく機能している。今後もこの方式を踏襲し、全国に散らばったメンバーができるだけ間を置かずに集まれる体制を維持していく。コロナ感染症の状況を見て、対面での会議の開催も検討する。いずれの場合も、メンバー間の自由な意見交換・学際的交流が可能になるよう留意していく。
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Research Products
(35 results)
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[Book] 渦動する象徴2021
Author(s)
杉村 靖彦、田口 茂、竹花 洋佑
Total Pages
388
Publisher
晃洋書房
ISBN
9784771034228
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