2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20H01267
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
豊島 正之 上智大学, 文学部, 教授 (10180192)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白井 純 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 准教授 (20312324)
岸本 恵実 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (50324877)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | キリシタン版 / キリシタン語学 / 宣教に伴う言語学 / Missionary Linguistics / 文法学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
「キリシタン語学」は、16世紀後半から17世紀初頭、キリスト教宣教会のイエズス会が、日本での布教に伴い、日本語・日本文化研究の一環として編纂した文法書・辞書・教義書・修徳書・典礼書などの「キリシタン文献」を、文法学・辞書学・表記論・音韻論等、語学的観点から研究する称である。 本研究は、文法書・辞書を中心に、ラテン語による修徳書・典礼書を含むキリシタン文献の全てを、同時代の典拠原典に遡及し、それぞれの典拠に基づく精細な語学的解読結果を得て、一貫した視点から、典拠原典に拠る解読の方法論を総合して、これまでのキリシタン語学を集大成し、研究資源としてのキリシタン文献の活用に資する事を目的としている。 今年度(令和3年度)までの研究では、原典辞書・資料類の入力・校正が大幅に進捗し、Calepinus 1580年Lyon版の多言語部分の校正を完了し、Manoel Barreto自筆「ポルトガルラテン語辞書」(1607)の入力・校正を進めた。 研究成果は、文字・表記論、辞書構成論、文法史学と多岐に亘り、それらの全ての面で、研究代表者・分担者が、国内・国際学会で招待講演・招待発表を行なった他、査読論文の刊行も行なって、学界での評価を得ている。又、キリシタン語学全体に就いての一般向け概説書として「キリシタン語学入門」を刊行して、研究成果に対する広い理解を得る事に努めた。 一方、COVID-19問題により、予定していた海外貴重書図書館への渡航調査が全く行えず、このため旅費は、予算よりも少額の費消に留まったが、海外図書館より取り寄せた高解像度画像などに拠って、更に調査を進め、来年度以降に、渡航可能となった場合には、克明な調査が行える様に、準備を調えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. キリシタン文献関連の辞書のうち、及びManoel Barreto著「ポルトガル語ラテン語辞書」(1607年)自筆写本のポルトガル語部分の入力・校正を完了し、更にラテン語部分の校正を進めた。当該辞書は、17世紀最大のポルトガル語辞典であり、キリシタン版「ラポ日対訳辞書」(1595)との関連が深く、キリシタン文献の語彙資料として最大の集成が得られる。同じく、Calepinus 多言語辞書(1580年Lyon版、過年度に入力済)の多言語部分の校正を完了した。この1580年Lyon版は、分担者(岸本恵実)が、「ラポ日対訳辞書」の底本と推定した版本であり、キリシタン辞書の根幹資料のひとつである。現在、オンライン・データベース化を進めている。 2. 国際会議に基づく出版: 昨年度(2021年3月)にブラジルで開催された国際会議での招待発表の内容を、論文化し、査読を経て査読論文として公刊した。(代表者・分担者)。一方、予定していた国際学会への参加、並びに海外貴重書図書館でのキリシタン版、及び16~17世紀文法書・辞書類原本の書誌学的調査は、COVID-19問題により、海外渡航が一切出来なかったために、実施出来なかった。 3. 分担者が編集主幹となり、代表者・分担者の全員が執筆して、一般向けの概説書「キリシタン語学入門」(八木書店、2022年3月)を刊行した。これは一般向け概説書ではあるが、本研究で得られた最新の研究成果を多く盛り込んでおり、キリシタン語学の最前線の水準を示すものと自負している。 この様に、予定していた海外資料調査は、海外渡航が出来なかったが、次年度に実施したい。一方、一般向け概説書の「キリシタン語学入門」の出版が行えた点は、年度当初の予定よりも進捗した点である。これらを総合すると、おおむね順調に進捗していると評価出来よう。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度に向けて、研究成果の取りまとめ、及び研究期間後の成果物の出版の準備などを積極的に行なう。昨年度は、COVID-19のために海外渡航が全く出来ず、本研究の書誌学的探究に必要な原典調査が不可能であったため、状況が好転すれば、その補いも併せて行ないたい。 1. 原典資料類テキスト校正:昨年度入力完了したManoel Barreto著「ポルトガル語ラテン語辞書」(1607年)自筆写本のラテン語部分の校正を完了し、キリシタン版「ラポ日対訳辞書」(1595)との関係を、統計的に把握出来る様に、データベース化する事を目指す。既に「ラポ日対訳辞書」はオンライン・データベース化済(https://joao-roiz.jp/LGR/)であり、これらとのリレーションを取る事で、キリシタン辞書の構成を、更に立体的に描出する事を目指す。 2. 原典調査:COVID-19の感染状況が好転すれば、キリシタン版、及び関連原典を所蔵する海外貴重書図書館を訪問して、原典に基づくファイル校正と書誌学的調査を行ないたい。 3. 国際学会での発表(令和4年9月): Leipzig(ドイツ)及びVila Real(ポルトガル)で開催予定の、宣教に伴う言語学(Missionary Linguistics)関係の2件の国際学会に、代表者がどちらも基調講演者として招待されており、又、研究協力者も招待発表者である(査読通過済)ので、研究成果を広く海外に伝達する場として参加したい。但し、COVID-19の状況次第では、開催されないか、又はオンライン開催となるであろう。 4. 上記学会のための予稿等を含め、既に多くの査読論文・事典記事などが研究成果として得られているので、これらを持ち寄り、随時国内での研究打ち合わせを行ない、研究期間終了後の、キリシタン語学を集大成した出版に向けての準備を進める。
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