2020 Fiscal Year Annual Research Report
知覚と注意のゆらぎのメカニズムを脳活動と自律神経系から統合的に理解する
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20H01789
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
近藤 洋史 中京大学, 心理学部, 教授 (30396171)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河原 純一郎 北海道大学, 文学研究院, 教授 (30322241)
木原 健 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (30379044)
江崎 貴裕 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任講師 (80773184)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 知覚交替 / 聴覚 / 錯聴 / 自閉症傾向 / 統合失調型パーソナリティ / MRスペクトロスコピー |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉スペクトラム症や統合失調症の特徴のひとつに感覚過敏がある。脳内での興奮と抑制作用の不均衡によって、このような症状を呈するという学説が提案されてきた。しかし、この説を支持する知見は未だ十分ではない。34名の健常者を対象として、彼らの自閉症傾向と統合失調型パーソナリティを特定するために質問紙調査を実施した。続いて、研究対象者の知覚特性を調べるために心理実験をおこなった。聴覚の錯覚現象である「単語変形効果」や「音脈分凝」を利用して、知覚交替の回数をその指標とした。さらに、脳機能計測手法であるMRスペクトロスコピー技術を用いて、脳内の興奮性および抑制性の神経伝達物質(グルタミン酸、ギャバ)の濃度を計測した。 1)知覚のゆらぎ: 研究対象者の自閉症傾向と統合失調型パーソナリティに正の相関が認められた。それぞれの傾向が高いほど、「単語変形効果」の知覚交替回数は減少することを見出した。ある聞こえ方に知覚が固定化される傾向によって、聴覚知覚の鋭敏さや物事に執着する性格特性が形成されるのかもしれない。 2)脳内の興奮・抑制バランス: 聴覚野でグルタミン酸/ギャバ比が大きくなるほど、自閉症傾向あるいは統合失調型パーソナリティの傾向は高くなった。一方で、前頭葉領域ではそのような相関関係は認められなかった。これらの結果は、上記の学説を支持するものであり、自閉症や統合失調症が生じるメカニズムを理解する一助となる。得られたデータに構造方程式モデリングを適用して、性格特性、知覚交替、および神経伝達物質の関係性を検証したところ、後二者の変数はやや独立して性格特性に影響していた。この点については今後さらなる検証の必要があろう。 3)アウトリーチ活動: 大学生や一般市民を対象としたオンライン講演会1件、プレスリリース1件、テレビ出演1件、取材協力3件などの活動をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の初頭から、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、学生に対して入構禁止措置が取られた。また、研究協力機関においても同様の措置が取られた。そのため、研究対象者と対面して実験をおこない、データを取得するという研究活動にかなりの制限が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画における心理実験および脳機能計測に関して、研究倫理審査委員会と安全審査委員会から既に承認を得ている。感染予防に留意しながら、実験を再開できるように研究環境の整備を進めていく。 1)心理実験の実施に関して: 今後も状況によっては、研究対象者と対面して実験をおこなうことが困難になる可能性が十分にある。オンラインで必要なデータを取得できるように、実験プログラムを内製あるいは外注する手立てを考慮する。 2)脳機能計測について: 研究協力機関における新型コロナウイルスへの対処方針には従わざるを得ない。とくに、MRI装置を用いた研究を支障なく遂行できるよう、他の選択肢を含めた様々な可能性を探っていく。 3)自律神経系の機能計測について: 近藤研究室の大学院生を教育・指導することによって、研究対象者の指尖容積脈波を問題なく、かつ効率的に計測できるようになった。予備的な検討をおこなって準備が出来次第、実験に着手する。
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