2020 Fiscal Year Annual Research Report
Diplomacy and Negotiation of a Provincial City in the Early Modern Venetian Republic: the Case of the Early Seventeenth Century Brescia
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20J00262
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
野村 雄紀 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | イタリア / ヴェネツィア / 近世史 / 西洋史 / 財政史 / 地方行政 / 政治史 / 国際関係史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヴェネツィア共和国の地方都市が中央・地方間で、および国内外にまたがって行う多方向的な交渉活動を、17世紀前半ブレシアの事例から考察することを目的とする。本年度は、本研究を構成する2つの研究課題に取り組んだ。 第一に、「1619-1621年監査審問官巡察時のブレシア都市参事会と監査審問官および中央政府の三者間の交渉」という研究課題に関して、先行研究の整理を行い、本事例の位置づけを探った。近年のイタリア近世史学界で注目されている「地方財政の統制」に関する議論において、ヴェネツィア共和国は主導的・継続的な地方財政統制の機構を持たない「弱い統制」の事例として認識されてきた。しかし、本事例では三者間交渉の結果としてブレシアに所在する国家財政機関が地方財政運営に継続的に関与する制度が構築されており、本事例は従来の認識を刷新する可能性を持つ極めて重要な事例であることを確認した。 第二に、「ブレシア統治官の多方向的交渉活動」という研究課題に関して、主たる史料であるミケーレ・フォスカリーニ(1620-1621年のブレシア統治官)の書簡記録簿の予備的分析を行った。その結果、統治官は従来の研究で指摘されてきた中央諸機関との間の交渉だけではなく、国内外に及ぶ多方面での交渉活動を行っていることが判明した。そして、それらの内容に関しては、当時の北イタリアにおいて問題化していた追放者(bandito)の犯罪行為が重要性を持つことが判明した。すなわち、国境を越えて移動しながら暴力行為を行う追放者に関する裁判権の管轄や犯罪者の引き渡しなど、司法という国家権力の枢要とも言える分野に関してブレシア統治官が国境を越えた交渉を自律的に行っていたのである。この事例は、主権国家体制を前提として外交の主体を中央政府とその大使・特使に限定するような認識を大きく修正しうる非常に興味深いものだと言えよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
区分(3)とした理由は以下の2点である。 第一に、「1619-1621年監査審問官巡察時のブレシア都市参事会と監査審問官および中央政府の三者間の交渉」という研究課題に関しての論文を学術雑誌に投稿するまでに至らなかった点が挙げられる。この課題については、上記の通り先行研究の整理や研究報告を通して研究内容をより精緻にできたものの、その結果として改めて確認すべき事項が浮上してきたため、それらを明らかにするための作業が必要となっている。 第二に、新型コロナウィルス流行の影響により、「ブレシア統治官の多方向的交渉活動」という研究課題に関して必要となっている現地史料調査を行うことができなかった点が挙げられる。本年度の予備的分析で明らかとなったブレシア統治官による国外の主体との間の交渉活動について複眼的に分析を進めるためにはイタリア北部の複数の文書館での現地史料調査が不可欠だが、依然としてイタリア渡航は難しい状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、「1619-1621年監査審問官巡察時のブレシア都市参事会と監査審問官および中央政府の三者間の交渉」という研究課題に関しては、確認すべき事項に関する先行研究や一次史料の調査を完了させて、論文の執筆を進める。 第二に、「ブレシア統治官の多方向的交渉活動」という研究課題に関しては、統治官の書簡のより詳細な分析を進める。本年度の予備的分析により、ブレシア統治官が書簡をやり取りしていた相手と、それらの書簡において扱われた案件について把握・整理することができた。今後は、これらの書簡のさらに詳細な分析を進めて、そうした重要な案件においてブレシア統治官がいかなる戦略をもって交渉を行っていたのか、そしてブレシア統治官の交渉活動が中央政府の意思決定や国家間外交に対してどの程度影響を与えたのかなどについて分析を進めていくこととする。また、新型コロナウィルスの流行状況によっては、初年度に実施できなかったイタリア北部の諸都市における現地史料調査も実施したい。
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