2020 Fiscal Year Research-status Report
Orthodox Churches in Ukraine as a New Form of Public Religion
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20K00072
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高橋 沙奈美 九州大学, 人間環境学研究院, 講師 (50724465)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ウクライナ / 正教会 / 政治と宗教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、政治的分裂と対立に苦しむウクライナの正教会が、いかなる公共宗教のモデルを提示しうるのかを、それぞれの教会の社会貢献活動から明らかにすることを試みるものである。 ウクライナにおける最大の教区数を持つウクライナ正教会(UOC-MP)は、モスクワ総主教座の影響を受けるものとして、2014年のロシアとの紛争以降、主にウクライナ・ナショナリストの批判にさらされている。一方、2019年1月にはコンスタンティノープル世界総主教の勅許をえた新正教会(OCU)が創設され、国家との協力関係を構築している。 本年度は、これまでの予備調査の結果をまとめながら、戦時下のウクライナにおける宗教やナショナリズムの問題を中心に、先行研究の精読に努めた。UOC-MPがこれまで構築してきた地元の社会関係資本を基盤として、ホームレス、孤児、国内避難民などの弱者救済事業を展開しているのに対し、OCUでは国家機関や軍との関係を生かした国内避難民、戦災孤児、傷病兵の支援を中心とした社会事業を展開していることを確認した。どちらも、ボンディング型の社会関係資本に依存しており、教会の社会貢献事業によって、社会的な対立は維持される可能性が強いことが指摘される。 その成果を、高橋沙奈美「ウクライナの排他的公共圏と正教会」西日本宗教学会、2021年3月27日(オンライン)として発表した。また、高橋沙奈美「コロナ・パニックと東方正教会(2)われわれの中に潜む敵――ウクライナ正教会の断罪と救い」『ゲンロンβ』53(2020年9月)としてウェブマガジンに発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は現地調査に出ることができなかったが、これは当初の計画においても、調査の予定は立てていなかったので大きな問題ではない。むしろ、当該年度には、予備調査の内容についてフィールドノートをまとめ、ウクライナの正教会の諸問題と公共宗教論についての先行研究を精読することを計画していた。 フィールドノートのまとめに関しては、現地協力者でもあるウクライナ科学アカデミー古文書学・史料学研究所上級研究員セルヒー・タラネツ氏の協力を得た。一部ウクライナ語でのインタビューがあり、インタビュー当時ウクライナ語を十分に習得していなかった筆者にとって、このフィールドノートをとることは困難だったため、氏の協力は大変貴重なものとなった。 また、先行研究に関しては、Olga Bertelesen ed., Revolution and War in Contemporary Ukraine (ibiden, 2017), Lucian Leustean ed., Forced Migration and Human Security in the Eastern Orthodox World (Routledge, 2020), Elizabeth Clark and Dmytro Vovk eds., Religion During the Russian-Ukrainian Conflict(Routledge, 2020)など、比較的新しい研究成果について精読することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、2021年度に東南部(ハルキウ、ポルタヴァ、ドニプロ州)、2022年度に西部(リヴィウ、チェルノウツィ、ルーツィク州)の調査を行う予定である。しかし、現時点ではウクライナへの渡航の可能性が非常に低いため、現地調査に代わる方法を考える必要がある。 2021年度は、各主教区のウェブページを調査することを考えている。すべての主教区が社会貢献活動について活発に発信しているわけではなく、その広報の度合いには濃淡があるが、そのことを含めて調査する。ウクライナ正教会(UOC-MP)と新正教会(OCU)のそれぞれのウェブページやSNSから、それぞれの教会の社会貢献活動とその広報の仕方を体系的に整理し、データ化する。具体的にはウェブページ、SNS上の社会貢献活動についての発信の有無、ある場合、活動している人々の名前、肩書、具体的な活動内容、教会外部組織との連携について調査する。
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Causes of Carryover |
国内学会・研究会のための移動がなくなったため、国内旅費が不要となったので、旅費として計上していた分を消化しきれなかった。 来年度以降、国内外への移動が可能になれば、旅費として予定通り使用することを計画している。移動が可能にならなかった場合、文献・物品購入で使用することを計画している。
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