2021 Fiscal Year Research-status Report
源氏物語享受の変容と平氏の動向に着目した始発期中世王朝物語の成立と文化圏の研究
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20K00292
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
西本 寮子 県立広島大学, 地域創生学部, 教授 (70198521)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中世王朝物語 / とりかへばや / 平氏文化圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近時活発になってきた中世王朝物語研究について、『とりかへばや』『有明けの別れ』といった異性装の物語を生み出し、物語創作に関与したと見なされている藤原隆信や藤原定家が活躍した12世紀後半をその始発期と位置づけ、焦点を当てて時代状況を見直す研究である。この時期には古記録が比較的多く残っていることから、それらの資料の読み直しを進め、当該時代の文化的状況を再度検討し直すことにより、新たな物語文学を生み出した時代の状況について考えることを目的とした。 今年度は、物語研究の最前線の状況を確認するため、オンライン環境で開催されることが多かった、関係する研究会に参加するなど、時代の状況を捉え直すことに直接つながる物語文学研究情報の収集を中心に研究をすすめた。ただし、直接の情報交換がなかなか叶わなかったことから、飛躍的な進展を見せている当該時代の歴史学研究に関わる情報についても収集することに舵を切った。新刊書や広い視野で文化状況を見据える論考などを中心に情報及び資料を集めた。結果として、文学研究では歴史研究の結果がまだ十分に反映されていないことを認識するに至った。そのような中ではあったが、中世王朝物語研究会をはじめとする学会や研究会に参加し、研究最前線の新たな知見を得るよう努めた。 現時点ではいまだ十分に資料の収集が進んでいないが、これまで必ずしも十分に調査が及んでるとは言えなかった平氏の人びとの動きを再度整理する必要があると考え、古記録の読み直しを進めているところである。近年の歴史研究の進展を視野に入れ、当初の予定より少し広い範囲で先行研究の再収集を行うこととし、今年度は『台記』『兵範記』を中心に読み直しをすすめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究期間の延長を願い出て認められている別の研究の整理とともに進めていることもあり、遅れ気味である。歴史研究の進展に伴う12世紀~13世紀前半の時代状況の整理を行った上で、諸資料の読解を引き続き進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
日記を記すほか口伝というかたちで血脈の正当性と権威を保っていった藤原頼通以後の摂関家のありようと、血脈上の遠さから擬似的的親子関係を結ぶなど王家との結びつきを強めていった人びとの動きを、今後のために再整理しておきたい。その上で、摂関家の人びとの文化・学問継承のありように目を向けるとともに、急激な勢力拡大により公事や故実を短期間で身につけることを余儀なくされた平氏の人びとが、摂関家や王家の資料や口伝をどのように利用したのかに注目して古記録類の読みときを進めたい。 とりわけ近時、『玉葉』の読み解きが進んでいる。12世紀最末期から13世紀にかけての時代状況を、これら先行する歴史研究の成果を踏まえ相対化しながら、『兵範記』『吉記』『玉葉』『明月記』等の資料の読みときを通じて、知られる時代状況と平家の人びとの動きを確認し、文化事象への関与を探っていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により、原則として勤務先の活動基準にしたがったこと、また、調査予定先の利用制限があったこと、研究会などがオンライン実施となったことなどにより、予定していた旅費の使用が叶わなかったことが、未使用額が生じた主な理由である。 翌年度分と合わせ、かなりの額が使用可能であるが、資料収集や研究会参加などに使用することとし、計画的な執行を行う。
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