2022 Fiscal Year Research-status Report
上代特殊仮名遣いを区別した『万葉集』の複数テキスト構築とその統計学的研究
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20K00329
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
村田 右富実 関西大学, 文学部, 教授 (30244619)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 万葉集 / 上代文学 / 統計 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、新型コロナウイルス感染症の流行による規制が緩んできた1年だった。しかし、狭い研究室に院生を集めて作業させるという状況にはまだなく、実際の研究の進捗状況は必ずしも芳しいものではない。 しかし、一方、『和歌大系 万葉集』のテキストファイルを作成できたのは収穫であった。これまで、基本的に歌の部分をテキストファイル化してきたのだが、今回は題詞、左注を含めた全体のファイル化に踏み込んだ。結果、『和歌大系』ならではの文字使用の癖なども浮き彫りにすることができた。また、甲乙の区別については、いまだしの状況にある。しかし、一括置換のテーブルを作成するなど、準備は進んでいる。 如上の基本的な作業とは別に、2022年度は「天平十三年の書持と家持との贈答について(二)―17・三九一二番歌について」(関西大学『東西学術研究所紀要』55号2022年7月)において、改訓の論文を書くことができた。今まで軽視されていた部分であるが、助詞「し」の分布についての先行研究を発展させることもできた。これは包括的なテキストファイルがあってのことだった。さらに「『万葉集』の「やど」・「には」・「その」・「しま」」(『日本言語文化の内と外』2023年3月)では、掲出した表現の違いについての論だが、こちらはその空間が歌われる歌に共起する植物を網羅的に調査することが基本となっている。今まで大きな区別なしに用いられた和語の輪郭を明瞭にすることができたと考えている。こちらも悉皆調査が基になっており、今回の研究成果の一部である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
遅れてはいるものの、2021年度までの遅れを取り戻しつつある。中でも大きかったのは、協力関係にある川野秀一氏(九州大学)との行き来を再開できた点である。やはり対面で研究会を開くのはzoomなどとは違い、適度な緊張感がある中での議論は研究に寄与することが大きい。 今回の議論では、今まで活用しようとしたことのなかった主成分分析の利用に目処が立った。現在、プログラムが明瞭に結果を出すことは確認できているので、今後、データの精度を調整することによって、目視可能な結果を出せると考えている。 一方、特殊仮名遣いを区別したテキストファイルの構築については、アルバイトを用いた集中的な作業が必要なのだが、新型コロナウイルス感染症の流行によってなかなか行えずにいるのが実情である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年同様、今後、新型コロナウイルス感染症の流行が収まることを前提にしてよいのであれば、大学院生や学部生をアルバイトとして確保して、これまでの遅れを取り戻す予定である。特に夏休みに集中的に行うことを計画している。2022年度に雇用した院生と学部生はかなり慣れてきているので、大きく挽回できると考えている。また、現在最も信用できるファイルを基本にその差分を作りながら入力する方法が確立したことも大きい。ただ、大学の制度的な問題ではあるが、ようやく育った4回生が卒業してしまった。もう少し人材が欲しいところなのだが、『万葉集』に対する知見と、PCの技術を合わせ持つ学生は多くなく、今年度の3回生の成長を見届ける必要がある。 また、具体的な解析については、川野氏との交流を活発化させ、先日の研究会で導入の可能性が見えてきた主成分分析を中心にさらに新しい手法の導入を考えて行きたい。特殊仮名遣いを区別したテキストファイルが複数できあがれば、これを利用したより細かな解析が可能になるだろう。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行がなかなか収まらず、アルバイトの確保が難しい上、複数人が研究室に詰めて作業を行うことが不可能であったために予算執行が難しかった。 2023年度は5類に移行するため、昨年度よりもスムーズにアルバイト確保ができる可能性が出て来たため、夏休みを中心に執行できる予定である。
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Research Products
(3 results)