2023 Fiscal Year Annual Research Report
カミュ『手帖』の生成研究―自筆稿復元の完成による資料的価値の再構築
Project/Area Number |
20K00483
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高塚 浩由樹 日本大学, 国際関係学部, 准教授 (90297771)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | カミュ / 手帖 / 日記 / 創作ノート / 草稿研究 / 生成研究 / 自伝的小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
カミュの『手帖』は、事故死した作家が遺した客観的資料とされてきた。しかし、彼は生前に『手帖』に修正を加えていた。本研究の目的は、『手帖』の自筆稿の復元を図りつつ、『手帖』の修正が、当時カミュが執筆を期していた作品(特に自伝的小説『最初の人間』)の構想を進捗させるための作業であったことを実証し、さらには、従来「不条理の作家」とみなされ続けてきたカミュを、フランスの「自伝文学」の伝統の中に捉え直すことにある。 2023年度には、コロナ禍で渡仏できなかった2年半の間に生じた遅れを取り戻すべく、次の4点を中心にフランスで調査を行った。(1)『手帖』第1・第7ノートの修正の内容と自伝的小説『最初の人間』の着想と構想の進捗との連関性の確認、(2)『手帖』第5ノートに記されたものの、従来『手帖』とは別個に出版されていた、1946年の北米旅行日誌の原稿の閲覧、(3)カミュが『手帖』とは別のノートに記録したが、2008年刊のカミュ新全集で『手帖』に加えられることになった、1949年の南米旅行日誌の原稿の閲覧、(4)カミュが『手帖』の修正を行ったのと同時期の1954年に執筆され、『最初の人間』の創作を予告した、『裏と表』再刊への序文の原稿の閲覧。 北米・南米での旅行日誌の原稿に目を通すことによって、新全集の『手帖』に収録された全テクストの原稿のチェックを終えることができた。また、『手帖』の原稿および『裏と表』再刊への序文の原稿の調査によって、カミュによる『手帖』の再読と修正が、『最初の人間』の執筆のための材料集めと構想の進捗を意図して行われたことを確信した。カミュをフランス自伝文学の伝統の中に捉え直す作業はその端緒にとりかかったに過ぎないが、今後、『手帖』の修正内容と『最初の人間』の草稿の連関の詳細を明らかにしつつ、その作業を進捗させていく所存である。
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