2020 Fiscal Year Research-status Report
Canonization and political order of South-west France in the High Middle Ages
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20K01068
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
小野 賢一 愛知大学, 文学部, 教授 (30739678)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヨーロッパ中世史 / 西洋中世史 / 列聖 / 聖俗権力 / 聖人伝 / 修道院 / 教会 / 国制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、聖俗の単純な二項対立で国制を読み解く叙任権闘争史観にかわる新たな国制史・教会史の可能性の探究を目的とする。そのために、国制史と教会史の領域横断的なアプローチを採用した。フロンティアヒストリー、複合国家研究、帝国研究といった国制史研究の最新の研究成果に学びつつ推進された。愛知大学人文社会学研究所のシンポジウムの成果を集成した論文集のなかでその成果をまとめた。同研究所主催のギリシア哲学者、中国哲学者、社会学者、心理学者、歴史学者による11月開催のシンポジウムの機会に共同研究者がキリスト教文化研究所紀要誌上に本研究課題の準備作業として訳出したイエズス会士ヘルトリングの列聖・列福に関する古典的論文の成果を参照して、sanctusと区別なく用いられているbeatus概念について、ラテン語原典史料『聖レオナール第一伝記』を用いて検討し、報告した。国制と教会の諸関係についてトランスナショナルヒストリーのなかで捉える方法論についてキリスト教史学の書評の場を借りて考察した。 実証研究の水準で王権や領邦君主権の十分に及ばない周縁部の状況を捉えるのは容易ではないが、列聖(聖人認定)のプロセスに着目するアプローチの採用によって、列聖を教会制度上の閉ざされたシステムではなく、聖界・俗界に開かれたシステム、すなわち聖俗のコミュニケーションの結節点として捉えうること、及び王権や領邦君主権の十分に及ばない周縁地域の社会的秩序を解明するうえで一定程度有効性を有することが確認された。封建時代のアキテーヌの列聖(聖人認定)の萌芽期の事例について、その成果の一端を愛知大学歴史地理学コースの最後の論文集(令和3年4月より歴史地理学科に改組)のなかで明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この研究を申請した令和2年11月の段階において、感染症が流行していなかった。進捗状況が、やや遅れているのは、感染症の恐るべき影響を全く考慮せずに立てた研究計画が実情に適合しなくなったためである。まず、研究発表を行う予定が翌年以降に延期となった。具体的には、豊橋市民トラムで、贖罪と国制に関する研究発表を2回にわたって行う予定であったが、当局の判断により、翌年に延期となった。藤女子大キリスト教文化研究所の例会で研究発表を行う予定であったが、これも延期となった。さらに在外研究の計画がすべて延期となった。次年度もこのような状況が続くことを想定し、研究計画を抜本的に見直さざるを得なかった。進捗状況の遅延を挽回すべく、研究計画自体の刷新と創意工夫にかなりの時間を費やすこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
この研究を申請した段階において、感染症が流行していなかったため、状況の変化に対応できず、進捗状況が、やや遅れててしまったが、次年度もこのような状況が続くことを想定し、研究計画を抜本的に見直し、対応策を立てた。 現在では、教会の専決事項とされる列聖は、中世においては制度形成の過渡期であった。中世史の領域では、教皇アレクサンデル3世の勅書『アウディウィームス』が採録された『グレゴリウス9世教令集』を起点としてその理想形が想定された。本研究課題の時代設定は、この理想形確立直前の混沌とした時期にあたる。したがって、聖人伝、奇蹟録、移葬・奉遷録、列聖教書、証人審問史料など多様な列聖の素材を時空間に位置付け、その本質と機能を解明する推進方策を取り入れることによって、列聖を固定化した制度ではなく、時代を反映した躍動感あふれる聖俗のコミュニケーションの交差場として捉え返し、研究の創造性・独創性を高める所存である。 12世紀後半にカンタベリ大司教トマス・ベケットに関する列聖申請時に編纂された聖人伝と、教皇権が発給した列聖勅書を比較検討する作業、及び同時期に編纂されたゴーシェ・ド・オーレイユの聖人伝の解析作業を進める。春に状況が好転すれば、BHL(Bibliotheca Hagiographica Latina)による調査に基づき、当該研究課題で調査対象とする列聖関連史料の網羅的調査・収集・解析作業を在外研究期間中に遂行する予定である。この作業により、列聖関連文書をまとまりのない個別の文書の寄せ集めとしてではなく、影響関係を持った有機的なつながりを有するひとつのコーパス(史料体)として捉えることができるだろう。 前年度延期になった2回にわたる贖罪と国制に関する研究発表と、キリスト教文化研究所主催の例会を行うことになっているが、これらの計画は感染症の影響によって再延期の可能性もある。
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Causes of Carryover |
フランスへ在外研究に出かけ、フランス国立図書館ミッテラン館、リシュリュー館、ソルボンヌ大学図書館古代中世史資料室、リモージュ図書館・オートヴィエンヌ県古文書館など現地にてヨーロッパ中世教会史・国制史・政治史関係の史資料を調査・収集・解析する予定であったが、研究計画立案時には予期することのできなかった感染症の爆発的流行という不測の事態が生じ、海外渡航を延期したため次年度使用額が生じた。状況が許せば、本年海外渡航費として使用したい。
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Research Products
(7 results)