2021 Fiscal Year Research-status Report
Proposal of STEAM Education Based on Interactive Exhibits at Science and Engineering University Museum
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20K13253
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
棚橋 沙由理 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (20834930)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Object-based learning / オブジェクト介在型学習 / 理工系大学博物館 / 文理芸融合型教育 / 異分野融合 / 多文化共生 / SDGs |
Outline of Annual Research Achievements |
STEAM教育への関心の高まりも後押しする形で、科学系ミュージアムの社会的・文化的意義がますます活発に議論されるようになってきた。同時に、理工系大学・学部では科学技術の社会実装に際し、科学技術コミュニケーションの重要性が増している。そのような現状において、大学博物館のオブジェクト介在型学習(Object-based learning)による分野横断型学習の可能性に注目が高まっている。欧米を中心に博物館教育の文脈で育まれてきたオブジェクト介在型学習ではあるが、わが国での実践例は乏しい。本研究ではオブジェクト介在型学習の再考にあたり、大学博物館のコレクションを用いた分野横断型学習としての有効性を検証し、科学技術コミュニケーション活動の一手法としてどのように一般化できるのかを明らかにすることを目的として、理工系大学の大学博物館における文理芸融合型ワークショップを実施した。その結果、オブジェクト介在型学習は学生の知識習得および共同作業について有用であることが明らかにされた。さらに、オブジェクト介在型学習が自然史・文化史といったミュージアムに親和性のある学問分野に帰属するオブジェクトを用いた伝統的な分野特異的な教授法としてのみならず、分野横断的なコミュニケーション手法として有用であること、あるいはオブジェクトの定義の広がりに応じて、従来のような物質文化に根差した「実物の」あるいは「有形の」オブジェクトだけでなく、デジタル人文学との融合による「仮想の」あるいは「無形の」オブジェクトも取り組む点において、既存の学習理論を拡大しうる可能性も示唆された。本研究により今後、オブジェクト介在型学習の多種多様な事例研究が展開されることで研究教育に資するとともに、科学技術コミュニケーション活動を通じた学術・文化コモンズとしての大学博物館の機能が一層高まるであろうことが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、予定していた参加体験型展示の制作は順調に進み、実践まで終了することができた。続いてさらに、「STEAM教育の枠組みでオブジェクト介在型学習の有用性を理解する」といった研究の過程で新たに生じた研究課題についても、順調に進行中である。コロナ禍のため、予定していた海外調査は達成できていないが、デジタル人文学、民族学ないし心理学といった多分野にわたる未開拓の学際研究を展開・推進することができている。とりわけミュージアムの参加体験型展示が、「学習者の学びとしてのみならず、参与者の癒しとして機能し得るのか」といったオブジェクトの心理的ウェルビーイングの向上機能に着目して、理論にもとづき実践計画を立てている。評価に関しては、心理的ウェルビーイングを測定するためのUCL Museum Well-being Measures Toolkit、Warwick-Edinburgh Mental Well-being Scaleあるいは孤独感・社会的孤立を判断するためのRevised UCLA Loneliness Scaleといった各種尺度を活用することができると考えられる。現在、これらを日本の文脈で使用できるよう、和訳し準備を進めている。心理的ウェルビーイングを向上させる参加体験型展示とはどのようなものなのか、事例研究を蓄積させることでヒトとオブジェクトの相互作用についてさらに明らかにしていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
心理的ウェルビーイングを向上させる参加体験型展示とはどのようなものなのか明らかにするため、OBLから派生した心理療法であるオブジェクトテラピー(Object therapy)に着目したいと考えている。というのも現代社会では,国・地域を超えて学生のメンタルヘルスが危機にさらされている現状がある。学修面・金銭面の不安あるいは社会的圧力により引き起こされるストレスにより、心理的ウェルビーイングが低下し、大学の臨床心理サポートを求める学生数が増加しているという。そこで本研究では、海外の事例研究を参照し、教育機関(大学)および文化機関(ミュージアム)が連携して学生の心理的ウェルビーイングを向上させるための手法を検証したいと考えている。この手法をわが国のミュージアムにおけるイベント・展示に援用し、各種尺度を援用して心理的ウェルビーイングを測定すれば、これまで議論されてきたオブジェクトの学習機能の枠組みを飛び越えて、そのヒーリング機能についても検証することができるはずである。コロナ禍で見通しは立たないが、本研究を遂行するため、オブジェクト介在型学習を機関戦略として取り入れているロンドン大学およびオブジェクトテラピーの先進事例を豊富に有するロンドン芸術大学への海外出張を予定している。2022年度は本研究課題の最終年度であり、この研究が成功すれば、オブジェクト介在型学習の教育手法、コミュニケーション手法そして心理療法としての機能を例証し、それらの関係性を明らかにすることができるはずである。
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Causes of Carryover |
当該年度中、複数の大会発表等を含めて海外出張を計画していたが、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により、安全を最優先し断念した。そのため、翌年度への繰越金が生じた。その一方、当該年度中、当初の予定にはなかった新たな研究展開があったため、配分範囲内で使途変更が生じ、研究遂行のため科研費を使用した。それでもなお、繰越金が残されているが、最終年度である2022度中、前年度(2021年度)に叶わなかった海外調査を遂行するため、全学を使用する予定である。
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