2021 Fiscal Year Research-status Report
Cello mechanics ~Focusing on endpin and bows~
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21K00194
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
林 裕 沖縄県立芸術大学, 音楽学部, 教授 (30465679)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鷲津 仁志 兵庫県立大学, 情報科学研究科, 教授 (00394883)
大宮 祐也 岡山大学, 自然科学学域, 助教 (40717203)
木之下 博 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (50362760)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | チェロの安定した支え方 奏法 / エンドピン / 弓の反り / 摩擦(トライボロジー) / 圧力 / 3D重心 / ベクトル / 力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
比較的小柄な人は、チェロを豊かに響かせたり、音のかすれをなくし高音・高速な曲においても正確に演奏したりすることに、不利な面があると言える。一般的に直線のエンドピン(足のような棒)を使用してチェロは演奏される。人によっては両足で十分に楽器を挟めない事や、届かなかい事があり、楽器から本来の音を出せていない事が多い。ヴァイオリン属などの擦弦楽器は、弓で弦を擦って音を出す。ここで、理解をするためにステーキを切る事に例えると、ナイフだけで切るのか、力の弱い子供がフォークを使用するのか、一般成人がフォークで刺してステーキを支えるのかによって、切れ味は変わる。このように楽器を支えられているかで音は変わってくる。 楽器の奏法を変えずに、重心と回転軸と重みの変化でベクトルが変わり、楽器を安定して支えられる事の証明が、本研究の第一課題となる。チェロ本体の制御性に関する有限要素法解析により、国際特許を取得しているイナズマエンドピンを使用した楽器だと、安定して支えられている事が解った。また、当該年度に予定していなかった楽器の重心を低くさせるための錘(ペザンテ)を作成する事ができ、踏み込んだ検証ができたのは大きな成果であった。 また、沖縄科学技術大学にて、世界的チェリスト ヨーヨー・マ氏に本研究をお伝えできたのは、世界に発信する重要な機会になった。 弓の構造および運動に関して、バロック弓およびモダン弓の相違を実演奏から予め体感していたため、利点を強調した弓の製作を開始した。具体的には、棹の反る場所の移動、棹を輪切りにした断面の異なる形状、重心のバランスと重みの配置に変化を施した。製作側は、普段は伝統に則って作製している。演奏者からの提案を具現化すると、別の問題点が生まれ、さじ加減と総合的なバランスが重要なことが解った。初年度に取り組み始めた事は理想的な形状を模索するにあたり、有意義であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず製作側からの伝統的なスタイルではなく、奏者側からの弾きやすさを求めた弓の図面案を作成し、スタイルの方向性を確認し、弓が完成した。また、新型イナズマエンドピンの図面を作成し、新型イナズマエンドピンが完成した。その後、新型ペザンテ(楽器を安定させるための錘)を図面作成、新型ペザンテが完成した。 完成後に、検証実験を行った。具体的には、チェロと、エンドピンと床との接点にもセンサーを付けた状態で、チェロを演奏できる鷲津教授が演奏し、その後、奏法が楽器に与える動力を測る検証実験に適したボウイングテクニックを確定し、林の実演を解析した。終了後すぐに木之下教授から結果報告があり、zoomによるオンライン会議で、エンドピンの違いにより、楽器の揺れ具合が違う事が証明されたことを確認した。 さらに、①一般的なエンドピンと、②【イナズマエンドピン】と、③錘付とを比較し、制御性について検証実験を行った。楽器にはセンサーを付けて、演奏する時の弓の動きが楽器に与える影響を、動画と音声と共にコンピュータへ記録した。また弓にセンサーを付けて、演奏の動作をデータ化した。これらのデータの検証の結果、上記の記載順に安定する事が解った。 弓の試作について、実演を繰り返し行った。格段と演奏しやすく、音の発音や音量が増したように感じられた。ただし、メリットを追求すると別のデメリットが生まれ、新たな問題も見えてきた。それらの改善点をまとめ、フィードバックを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、弾きやすさや楽器が安定しているといった制御性の解析だけでなく、本学のホールなどの広い会場で本格的な録音データと共に、「イナズマエンドピン」や「ペザンテ」錘を使用した時の音量や音質といった、音への影響もあわせて検証していく。 また、研究協力者の大学院生とともに検証数を増やし、より精度の高い解析結果を求める。また、実演側から、演奏しやすさや、構えやすさなどの意見徴収を行う。 「ペザンテ」に関しては、現行ではエンドピンを外してから装着しないといけないが、エンドピンを抜き取らずに装着できる構造を思案する。弓に関しては、頭の中にある理想的な感触に近づける事は難しいが、新たに生まれた問題点などのフィードバックと試作を繰り返し、具現化できるようにメーカーへ伝えていく。 初年度に予定していたが取り組めていない、弓の構造および運動に関して、実験に基づく有限要素法シミュレーションにおいてバロック弓、モダン弓およびプレイヤー目線からの新たな弓モデルを作成し、構造解析方法を検討し、実施する。それぞれの弓に対して形状測定を実施し、ヤング率など力学係数も計測する。毛の張力―ひずみについても計測する。弦との表面相互作用に関して、松脂塗布下における弦との応力および摩擦について測定する。これらの実験値を用いたモデル化の後、重心の位置に着目することにより、モダン弓となることにより安定した運弓および音量増大が実現することを検証する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍において、実際に集まって研究する機会が少なかった。また、感染拡大が全国で高い沖縄において、研究協力者の大学院生と一緒に研究することも控えていた。さらに実際のレコーディングと合わせた解析を行なっていなかったのも大きな原因である。他には、弓の研究が進まなかった原因として、良いバロックボウに出会えなかった。これらの要因により、次年度使用額が生じた。 購入予定として、バロックボウ、弓のパーツを試作するための3Dプリンタ、弓の試作、録音機材を検討している。それらで弓関連とともに、楽器の制御性と演奏する実際の音の相違について解析を進める。 また、研究協力者にも参加していただき、解析結果の精度をあげる。
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