2023 Fiscal Year Research-status Report
Cello mechanics ~Focusing on endpin and bows~
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21K00194
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
林 裕 沖縄県立芸術大学, 音楽学部, 教授 (30465679)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鷲津 仁志 兵庫県立大学, 情報科学研究科, 教授 (00394883)
大宮 祐也 岡山大学, 自然科学学域, 助教 (40717203)
木之下 博 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (50362760)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | チェロの安定した支え方 奏法 / エンドピン / 弓の反り / 摩擦(トライボロジー) / 圧力 / 3D重心 / ベクトル / 力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の1つは、チェロを安定して保持できることで、音の掠れや鳴り損ないがなく、伸びやかな音や強音においても音が潰れなくなり、速いパッセージにおいても左指と弓の動きの誤差や音程の悪さを少なくし、チェロ演奏レヴェルの向上や、芸術的な演奏にも繋げたいところだ。コロナウィルスが5類に移行し、ようやく検証実験を行いやすい環境が整ってきた。 8月に神戸県立大学で、11月に沖縄県立芸術大学の奏楽堂ホールに於いて、共同研究者を交えて「チェロの力学」と題して測定会を開催した。述べ20名弱の演奏動作を、時間軸とともにXYZ軸の動きとして可視化した。具体的には弓と、楽器にセンサーを装着して、コンピュータを通し、大型モニターや、プロジェクタを使ってリアルタイムで確認し、測定条件を、数パターンの適した奏法、エンドピンの違い、構える足の有無で測定し、それをデータ化し、検証数を増やすことができた。ここから得られた結果は、開発した稲妻エンドピンとペザンテを使用することで、多くの条件で楽器が安定することが証明できた。また、実演側から、演奏しやすさや、構えやすさなどの意見徴収を行った。 また、1月にはサントリーホールのリハーサル室に置いて、60人ほどが参加した日本チェロ協会のイヴェント内で、チェロの力学の講義と、研究成果を5人の参加者の試奏を交えて報告し、多くの肯定的な意見を頂いた。本研究の2つ目の弓においても、伝統的なスタイルではなく、柔らかさと粘りがあり、弦に吸い付く弓の形状を具現化し、試奏して頂いた。「よく考えたね」「いくら?」「音が良い」「弓先まで音が変わらない」と言った意見があり、日本のチェロ界の重鎮方が揃う協会イヴェントでの発表は大変有意義であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新しい稲妻エンドピンの形状については、角度や長さなどのブラッシュアップは必要かも知れないが、概ね現段階での完成に至っている様に感じている。問題としては、楽器とエンドピンのネジ止め箇所において力がかかってしまっていることが、楽器に悪影響を与えてしまっているのではないかとの心配がある。これについては、曲げる角度や長さで解決できるのであろうと推測している。 弓においては、メリットとデメリットのバランスを取ることの難しさを感じている。メーカーとの再調整を行い、新たに改善するように依頼をかけてある。予算がなくなってきているため更なる弓の試作はできないが、音色が良く、弦に吸い付き、演奏しやすい弓のイメージがわかってきた。私費での材料買込みも行い、試作に取り組んでいる。 楽器を更に安定させる錘器具「ペザンテ」は、意匠登録1769333https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2023-026713/30/ja商標登録第6789681号https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2023-100608/40/jaで取得済みとなった。また、ロゴのデザインを依頼し、仕様や制作数量が決まった。 共同研究者と共に、安定して楽器を構える奏法や、弓を動かす動作を、角速度として測定したデータを収集し、可視化してある。これは研究実績の概要でも述べたが、神戸と那覇で行い、想像通りの結果が出たと確認できている。また、沖縄では奏楽堂ホールを使用して、遠近での録音データも収録してある。更に、参加者のそれぞれの身長や、アンケートなども実施した。結果を判断するには充分なデータ数が集まり、少人数でも20人ほどになっても割合が偏ることがないため、稲妻エンドピンの安定感を証明できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
「ペザンテ」については、収納ケースや取扱説明書、サイト作成など最終段階に入っており、この夏には商品化できるであろう。開発者や発案者、デザイン担当や各種申請など、製作チームでのメイキング動画のなかで、本研究の成果を挿入できないか検討したい。 弓においては、より演奏しやすくするために「フロッグ」という弓の元の部品の形状を試作する必要がある。分担者が溶融型の3Dプリンタを導入し、作業が捗ることに期待したい。また、弓の構造および運動に関して、実験に基づく有限要素法シミュレーションにおいてバロック弓、モダン弓およびプレイヤー目線からの新たな弓モデルを作成し、構造解析方法を検討し、実施する。それぞれの弓に対して形状測定を実施し、ヤング率など力学係数も計測する。毛の張力―ひずみについても計測する。弦との表面相互作用に関して、松脂塗布下における弦との応力および摩擦について測定する。これらの実験値を用いたモデル化の後、重心の位置に着目することにより、モダン弓となることにより安定した運弓および音量増大が実現することを検証する。チェロに限らず、ヴァイオリンやヴィオラ奏者の試奏データを収集できないか、共同研究者と方針を立てていきたい。また、音色が良く、弦に吸い付き、演奏しやすい弓のイメージをブラッシュアップする。 共同研究者が測定した角速度のデータを整理する。新たに導入したモーションソフトにより骨格の動きから奏法の確認や音への影響にも調査したい。それに合わせて、音の違いが分かるように遠近で収録してある録音データを、奏法の確認と、音色の違いや音量の強弱、遠くまで伝わる、いわゆる「遠鳴り」しているのかなどの調査を行い、新たな成果が発見できればと考えている。 研究代表者の林は、音楽畑の人間なので学会というものに明るくはないが、トライボロジーの共同研究者を通じて、学会発表ができないか、意見交換をしていく。
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Causes of Carryover |
研究開始当時は、コロナウィルスが猛威を振るっており、メールでのやり取りや、共同研究者のみで検証実験を行なっていた。紙の上や想像だけではサンプルデータ量が少なく信ぴょう性に劣る状態であった。5類に移行したことで、規模を大きくして検証実験を行うことができる様になった。 研究を進める上で、残り少ない研究費を何に充てるのか十分に検討する必要があったため、次年度に使用額を温存した。 使用計画としては、物品費チェロ弦8万円、その他85,555円とし、有効に使用できるよう検討する。
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Research Products
(2 results)