2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00871
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
福田 千鶴 九州大学, 基幹教育院, 教授 (10260001)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 豊臣秀頼 / 帝鑑図説 / 豊臣公儀 / 人的資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、豊臣政権において蓄積された人的資源が、豊臣秀吉の死後に徳川家康と豊臣秀頼が両立する状況下で、どのように分有され、豊臣公儀が徳川によって占拠されていったのかという歴史過程を分析することを第一の目標としている。その一過程として、本科研では豊臣秀頼側に残った人的ブレーンの解明を中心に検討する。具体的には、秀頼版といわれる「帝鑑図説」の出版をめぐり、これにかかわった人物やネットワークを解明することで、豊臣秀頼側に残った人的ブレーン、とくに文化面の解明を進めることを課題として設定した。 本年度は新型コロナウィルスの感染状況下にあったが、感染がおさまった10月11月を中心に調査を進めることができた。調査先は、国立公文書館内閣文庫、東洋文庫、名古屋市蓬左文庫、大垣市立図書館である。写真撮影ができるものについては全冊をデジタルカメラで撮影し、蓬左文庫本と宮内庁本は業者依頼により写真版を入手した。他にもインターネット上で入手できる書誌情報をもとに、データベースの作成を進行中である。 本年の検討では、秀頼版「帝鑑図説」は、一つとして完成本がなく、しかも同じものがない、ということがわかった。装丁は改装されているものばかりで、料紙も天地を切断されたものが多く、出版当初の状態を再現する手がかりを今後の調査で発見していく必要がある。蓬左文庫は調査前に複写を入手していたが、原本調査により新発見があった。現段階での最善本は、御所本と言われている宮内庁書陵部本である。伝来の経緯も確かなので信頼に値するが、残念なことに改装されている。また、1丁の落丁があって、これも完成本とはいえない。落丁がどの段階で起きたのかは判断できないが、完成本の発見も今後の課題である。なお、伝来の経緯がわかる伝本もみつかっており、それらの分析は今後に期待できる成果であった。なお、研究論文は、2本を執筆・公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスのため、当初、9月に予定していた大阪・奈良方面の調査は実施できなかったが、調査先を柔軟に変更し、10月と11月に調査を許可された東京・愛知・岐阜での調査が実施できた。調査した伝本は、東洋文庫以外は全冊を撮影して入手できている。なお、東洋文庫に関しては、表紙や重点的に閲覧すべき箇所のみの撮影しか許可されなかったが、研究協力者の所属する国文学研究資料館にて、白黒ではあるが写真版が全冊閲覧できるので、伝本を比較する際の研究上の支障はない。オンラインで入手できる書誌情報に関しては、着実に入手してデータベースの作成を進めており、今後の調査計画の優先順位を立てることができている。また、伝本を比較する際の書誌情報のポイントについても見通しを付けることができており、効率よく調査が進められていると判断する。 一方の「豊臣秀頼史料集」の作成については、綱文と史料所在情報データの基本入力を終え、テキストデータの入力作業に取り掛かっている。 研究成果に関しては、豊臣秀頼の周辺にいて重要な影響力をもったと考えられる浅野寧(北政所・高台院)に関する基礎的事項についての検討を進め、論文として公表した。また、大坂周辺での動向を解明する一助として、筑前福岡の大名黒田長政の発給文書の資料紹介を行い、記録の少ない慶長期の史料状況を改善するための研究成果を提示した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、本年度と同様に「帝鑑図説」の伝本確認作業を研究協力者とともに進める。これまでも「帝鑑図説」研究は進められてきたが、古活字・文学・美術史の研究としてであり、歴史学の立場からは十分ではなかった。そのことは、初年度の調査結果からだけでも、指摘することができる。よって、次年度以降も同様な手法を用いて、「帝鑑図説」の歴史学的観点からの分析を進めることで、新たな研究成果を提示したい。 調査先は新型コロナ感染症にもよるが、2022年度は米沢市上杉博物館、東北大学図書館、東京大学附属図書館、宮内庁書陵部などの原本調査にでむき、可能な限りデジタルカメラによる写真撮影によりデータを入手する。また、原本調査でしか得られない史料情報があることが本年の調査でも確認できたので、すべての原本調査が必須となる。米沢市上杉博物館は、インターネット上で画像が確認できるが、原本調査を実施できるよう、計画的に調査を進めたい。 「豊臣秀頼史料集」に関しては、テキストデータの入力作業を進める。目標としては、誕生から関ヶ原合戦とその戦後処理が進む慶長六年までとする。関ヶ原合戦に関しては、データが膨大となるため、どの程度まで採録するかを検討しつつ、効率的に進めたい。 また、今年度に得られた知見を研究論文として発表し、所属大学のリポジトリ―で公開する。
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Research Products
(2 results)