2021 Fiscal Year Research-status Report
フィールドの共創的な再現:差異と類似をめぐる教育実践から構築する公共的な人類学
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21K01057
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
飯塚 宜子 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 研究員 (60792752)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
園田 浩司 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 研究員 (20795108)
大石 高典 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30528724)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 演劇手法 / パフォーマンス / 相互行為 / カナダ先住民 / アフリカ狩猟採集民 / 教育 / 物語 / 環境観 |
Outline of Annual Research Achievements |
人類学者や地域研究者、俳優、および公募した学習者(小学生と保護者)が協働し、教室やオンライン空間をフィールドに見立て場を演劇手法で共創する実験的ワークショップを、2021年10月31日から2022年1月30日にかけて、計10回実施した。具体的には、ブータンの北東部、カメルーンの熱帯雨林、ペルーの山地、中東におけるイスラーム文明圏、カナダ北西海岸クリンギット先住民の居住地という5地域について、学習者が「探検隊」となりフィールドでさまざまな事象に出会い、自らワークを行う2時間のプログラムを、研究者と俳優による打ち合わせやリハーサルを通して考案し、オンラインなどの要件にあわせて修正し実施した。またワークショップ体験型の研究会を、国際理解教育学会研究・実践委員会地域論プロジェクトとの共催により、2022年3月6日に2回実施した。これらは、京都大学東南アジア地域研究研究所から主に配信を行い、京都府の大学連携環境学習プログラムとの共催、京都市教育委員会等の後援を得て実施したものである。 研究代表者と分担者はこの教育実践を、国内でおこなわれている他の文化理解学習ワークショップと比較してどう位置づけ、どう評価するかを検討するために、各学会、研究集会、オンライン・セミナー等で発表し、各専門分野研究者らと意見交換をおこなった。これらの意見交換を通して、「この実践が学習者にどのような『成員性』を育むか」など、新たな議論の切り口が生まれた。学習者間、学習者と研究者・俳優間におけるフィールドの共創が如何に行われたかについて、参与観察、動画記録、アンケート結果に基づき分析、あるいは相互行為分析をすすめている。また打ち合わせやリハーサルを通して、俳優と人類学者の実践知が如何に交錯しひとつのプログラムとして構築されていったか、トランスディシプリナリーの観点を導入しプロセスの記述をすすめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は5つの地域をめぐる計12回の教育ワークショップ実践を行い、動画やアンケートなどのデータを収集するとともに、国際理解教育学会研究・実践委員会地域論プロジェックト民話タスクとの協働により、地域の「物語(民話・神話)」に着目し研究をすすめた。カナダ北西海岸部クリンギット先住民のコミュニティにおけるトーテム動物をめぐる神話や、カメルーンの熱帯雨林における狩猟採集民バカピグミーの精霊観をめぐるリカノ(語り部による物語)に特に着目し、共同体の成員にとって世界の前提である「地域の内側における学び」と、日本の学習者にとって他者理解の具体的な手がかりである「外側から地域を知る学び」の双方にとって重要な素材であることを改めて確認した。人と自然を「主体と客体」の二元論に還元する現代的な環境概念とは異なる、「人は土地の一部」「人は水の一部」というような地域の「語り」に見られる人と自然の境界が曖昧な環境観について検討を行い、公開研究会や学会などで発表し議論を深めた。 オンライン配信という方法は、学習の場の構築メディアとしては物足りない反面、テクニカルな利点も見いだせた。場の背景写真や動画を際限なく切り替えながら「探検」をすすめることが出来る臨場感や、対面とは異なる没入感が認められたことや、海外など多彩な居住地からの参加も得られた。また協働する研究者や俳優とのネットワークが広がり、進行シナリオや事前配布用の解説資料も充実した。加えて、オンラインワークショップにおける参与観察の結果、対面的なインタラクションの意味について考察する手がかりを得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず国際理解教育学会研究・実践委員会地域論プロジェクト最終報告書の作成に参画する。地域の暮らしを生成する学びと「物語(神話やリカノ)」の関わりについて論じると共に、本教育実践を通して得られた動画やアンケート資料に基づき、日本の児童が地域の「物語(神話的思考)」に学ぶ今日的意味について考察を深める。ならびに日本の学習者がアフリカの熱帯林のコミュニティの模倣を行うことを通して立ち上がった「成員性」をについて、具体的な分析をおこなう。 そして『地域研究』オンラインジャーナルの特集企画として、さまざまな地域のあり様を2時間のプログラムに翻案していった協働のプロセスについて記述していくことをすすめていく。さらに文化人類学会においては、トーテミズムをめぐる演劇手法ワークショップを通した分析から、「野生の思考」の共創的再現について発表を行う予定である。これらを通して、「地域の暮らしにおける学びの生成」や、「間主観的なフィールドワーク」によって彼らの視点から世界を見る学びと、一つの正解に収斂していく「学校教育の学び」を比較し、人類学による新たな教育の可能性を探求していく。 教育実践についても、2022年度は対面実施の可能性を探りながら、これまでのカナダ先住民、カメルーンの狩猟採集民、ブータン、イスラーム、アンデスに加えて新たな地域のプログラム生成を目指す。 また2022年度には、海外渡航が再開できるようになる可能性が高い。研究代表者と分担者が以前訪問した狩猟採集民バカ・ピグミー社会と連携し、カメルーンにおけるバカ・ピグミーの自然環境との関わりを扱うワークショップの現地開催に向けた道筋を立てたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、対面ではなくオンラインワークショップに移行、加えて研究打ち合わせもオンラインで実施したため、旅費の使用が予定より減じた。今年度は対面による場の構築を目指すとともに、実践研究会の頻度も増やす予定であるため、旅費と謝金の使用が見込まれる。
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Research Products
(6 results)