2022 Fiscal Year Research-status Report
フィールドの共創的な再現:差異と類似をめぐる教育実践から構築する公共的な人類学
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21K01057
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
飯塚 宜子 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 研究員 (60792752)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
園田 浩司 新潟大学, 人文社会科学系, 講師 (20795108)
大石 高典 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30528724)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 演劇手法 / パフォーマンス / 相互行為 / カナダ先住民 / アフリカ狩猟採集民 / 教育 / 物語 / 環境観 |
Outline of Annual Research Achievements |
人類学者や地域研究者、俳優、および公募した学習者(小学生や一般市民等)が、教室をフィールドに見立て、場を共創するワークショップを、2022年10月9日から2023年2月を計11回実施した。具体的なフィールドは、カナダ北西海岸クリンギット先住民の居住地、カメルーンの狩猟採集民バカの熱帯雨林、地形変化に富むアンデス地域に加え、人々が日常的に仮面劇を行うインドネシア・バリ島を取り上げた。学習者は、フィールドにおける様々な事象を演劇手法(主にロールプレイ)を通して体験し、主体的・即興的にモノゴトを共創する。研究者と俳優は、打ち合わせやリハーサルを通してプログラムを検討し、省察し修正を加えながら実践を重ね、動画記録やアンケート等のフィードバックデータを収集した。 いくつかの実践を取り上げて、口頭発表を行い、論文をまとめた。そのなかでは先ず、北米先住民クリンギット社会における人間と環境の一体性について「説明モード」のみではなく「体験モード」からアプローチする「フィールドワーク」と「演劇手法(ロールプレイ)」の共通性について検討した。そして世界を科学的のみならず、象徴的に捉えることを意識的に共有するクリンギットの「物語(神話)的思考」を、日本の子どもら学習者らが、如何に場を共創するなかでなぞり、各々の考えを生み出していったかを、会話分析やアンケート分析をもとに論文にまとめた。また、人類学者と俳優によるワークショップの共同制作過程や、フィールドワーカーの身体性をいかにワークショップに生かすことができるかについても論文にまとめ、上記2本のWEB公開をおこなった。また北米先住民クリンギット社会における、人間集団と動物集団の相同性から自らのあり方を象徴的に学ぶものとされるトーテミズムに関して、学習者が如何に体験的な演劇手法から学んだかについて、日本文化人類学会において口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染対策が緩和され、2022年度は2年ぶりに「対面」でワークショップを実施することが出来た。とはいえ、11回の実践すべてにおいて、研究者も俳優も学習者らもマスク着用が必須であったため、表情の読み取りや相互行為への影響は少なくなかった。そのような条件下であったが、研究代表者の拠点である京都のみではなく、新潟や東京など、協働する関係者や研究者の輪が広がり、実施地域も広がっていった。具体的には京都大学東南アジア地域研究研究所における8回(京都府の大学連携環境学習プログラムとの共催)に加えて、新潟市において「にいがたNGOネットワーク」との共催で1回、東京外国語大学においてフィールドサイエンスコモンズ(TUFiSCo)との共催で2回の実践を行うことが出来た。 本課題は、市民や児童が多元的な差異を知ることを通して自らの内的な諸要素に気づき、他者と自らの類似や普遍への認識を深めることが可能かを相互行為分析等によってはかり、パフォーマンスによる共創的な表象の有意性を検証し、その方法論を構築するなかで、人類学の公共的な在り方を提起することを目的としている。学習者の学びの分析が不可欠であり、前年度に引き続き国際理解教育学会研究・実践委員会地域論プロジェクト民話タスクの枠組みにおいても研究をすすめた。そこでは平和構築という観点を重視しつつ、地域における物語(神話・民話)という切り口から国際理解教育学の共同研究者らと議論を深めることが出来た。また、文化人類学と同様に「地域の人々からみたら世界はどう見えるか」という視点から研究を行う地域研究の視座からも議論を深め、次年度の地域研究の特集企画の準備を行うことになった。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題で取り組んでいる児童らとの共創的ワークショップは、地域研究者の有する知識資源・身体資源をもちいて意図的にトランスカルチャルな場を作りだす実験的な実践だと言える。ワークショップ実践の一連の過程をどのように記述・分析できるのか、なお探究の余地があり、そのための共同研究が必要である。 今後は、ワークショップ実践で得られた動画資料やアンケート結果をもとに、引き続き、データセッションや研究会への参加を通して会話分析の専門家や人類学研究者からの意見を得ながら、相互行為の分析をおこなっていく。具体的には、ワークショップの参加者は何者として異文化を理解するのか、またワークショップ内で生起した何気ない発話や、教室に設置された民族誌資料が、学習者の異文化理解過程をどのように組織したのか、を検討する。これらのデータを整理しながら、これまで各々のフィールドの再現を担ってきたアフリカ、カナダ、アンデス、イスラーム文化圏、ブータンを専門とする文化人類学者と地域研究者が、ジャーナルの特集企画の論文執筆を準備する予定である。 さらに、人類学では他者を表象する新たなエスノグラフィーの手法が模索され、フィクション、ドラマ、パフォーマンス・テクスト、エスノグラフィー的詩などが取り組まれている。本課題は、研究者と学習者とパフォーマーが共創するという新たな手法を構築する試みでもある。先行する実践のなかでの本課題の位置づけも明確にしていきたい。
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Causes of Carryover |
予定していた打ち合わせをオンラインで実施し、および、代表者・分担者以外の共同研究者が、自身の研究課題にも関わる実践だと判断され、本課題の実践に関わる旅費を負担したため、旅費の支出を抑えることが出来た。
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Research Products
(9 results)