2021 Fiscal Year Research-status Report
リガンドの多価結合による分子認識機構を有する生体分子間相互作用の解析手法の確立
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21K12112
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
能登 香 北里大学, 一般教育部, 講師 (20361818)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 生体分子間相互作用 / 分子認識機構 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内で細胞や特定の器官が高度に識別される時,細胞膜の構成成分として広く分布する様々な糖鎖の認識特異性が使われている.本研究では生体内における糖鎖認識機構の解明に向けた新たな解析手法を開発している. 大腸菌の1型線毛の付着因子FimHアドヘシンは,マンノースに結合するレクチン領域と,線毛に固定するためのピリン領域から成り,細菌感染に不可欠な因子である.マンノース糖鎖の構造の違いによってFimHとの親和性が異なる,細胞の解離時にFimHと糖鎖間に剪断応力が働く,糖鎖多価結合が関与する等,興味深い実験結果が報告されている. FimHの糖鎖認識の特徴を明らかにするため,第一にFimHと4種類のマンノース糖鎖間の相互作用解析を行い,実験結果と比較した.FimHが糖鎖に結合する複合体の結晶構造を出発構造にして,分子動力学シミュレーションを行い,スナップショット構造におけるFimHと糖鎖間相互作用を量子化学計算により計算し,実験から得られている熱力学的データと比較し,その結合様式の違いを解析した.その結果,算出した各糖鎖とFimH間の相互作用エネルギーが,実験的に得られた解離定数と定性的に一致することが明らかになった.特に,相互作用に重要な役割をする活性部位に存在するアスパラギン酸と二つのチロシン残基の配座の違いによって,相互作用が変化する様子が観察された.さらに解離を防ぐための剪断応力が働く状態でのFimH糖鎖複合体結晶構造を利用して相互作用解析をしたところ,一定時間が経過後も,活性部位における糖鎖相互作用が強く,ループ構造が少々乱れても,糖鎖親和性には影響しないことが明らかになった.これは,立体配座が変化しても,糖鎖親和性は保持されるという実験結果と一致するものだった.これらの結果をまとめ,日本糖質学会年会および日本化学会春季年会で発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度である令和3年度は,当初の研究計画の通り順調に研究が進んだ.新たな研究対象である付着因子FimHアドへシンにおける分子間相互作用ついて,基礎的な知見を得ることができ,その結果をまとめ,合計2回の学会発表を行った.このため,概ね順調に進展していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
生体内での糖鎖認識におけるタンパク質と糖鎖間の結合はさほど強くなく,複数の糖鎖のまとまりが「模様」として認識されているという実験結果が最近報告され,その応用が注目されている.しかし,リガンドの多価結合による相互作用を理論的に扱うシミュレーション方法は開発されていない. 令和4年度は,リガンドが多価結合する際の認識特異性の解明を可能にする新たなシミュレーション方法の開発に向けて研究を遂行する.FimHアドヘシンでは,「アドへシンが単独で糖鎖に結合」する構造(PDB ID:6GU0)と,「2つのアドへシンが1つの糖鎖に結合」する構造(PDB ID: 6GTV)が報告されている.糖鎖―アドへシン間の親和性の特徴を明らかにするため,上記結晶構造を出発構造として古典分子動力学シミュレーションを行い,立体構造の動的変化を解析し,MM-PBSA(GBSA)法により結合自由エネルギーを求める.シミュレーションの単位時間刻みのスナップショット構造に対して,溶媒を考慮した量子化学計算を行い,詳細なタンパク質―糖鎖間の相互作用を定量的に見積もり,実験で得られた結合解離定数と比較し,シミュレーション方法の問題点を確認しながら研究を遂行する. 次に,「1つのタンパク質が複数の糖鎖を認識する」場合を対象にする.O157株などの腸管出血性大腸菌によって産生される志賀毒素のBサブユニットは,標的細胞表面の複数の糖脂質と特異的に,多価結合することが明らかになっている.この結晶構造(PDB ID: 1BOS)を利用し,本研究で開発した手法を用いて,多価結合する複数糖鎖とタンパク質間相互作用の特徴を解析し,親和性実験の結果と比較し,シミュレーション方法の汎用性について検討する.研究結果を国内外の学会で発表すると共に学術雑誌に投稿し,リガンドの多価結合による認識に関する基礎情報を発信する.
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Causes of Carryover |
旅費を予算計上していた国内外の学会参加について,職務規定の理由により,参加方法をオンラインに変更したり,参加自体を取りやめた.このため,旅費および学会参加費(その他)等の項目で剰余金となった.今年度は,並列計算機を購入予定であり,研究成果を積極的に発表するために複数の学会に参加する予定である.そのための旅費及び,学術雑誌投稿準備のための英文校正代として使用する予定である.
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