2023 Fiscal Year Annual Research Report
リガンドの多価結合による分子認識機構を有する生体分子間相互作用の解析手法の確立
Project/Area Number |
21K12112
|
Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
能登 香 北里大学, 一般教育部, 准教授 (20361818)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 分子認識機構 / 糖鎖 / 多価結合 / 分子動力学 / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内糖鎖は多価で結合することで親和性を高め,その認識特異性により細胞認識の役割を担うことから,令和5年度は下記の2つの系を対象に研究を行った. 大腸菌の1型線毛の付着因子アドヘシンFimHと糖鎖の親和性は糖鎖内のグリコシド結合の違いによって異なる.FimHと糖鎖複合体結晶構造を用いたMDシミュレーションと量子化学計算から,この糖鎖親和性の違いが,FimHの活性部位に存在するアスパラギン酸と二つのチロシン残基の配座の違いに起因することが前年度までの研究で明らかになった.大腸菌の活性は温度依存性があるため,シミュレーションの温度条件を変え,その影響を解析した.FimHと親和性が強いα3Man2糖鎖は,温度上昇によってFimHと糖鎖親和性がさらに強くなり,大腸菌の活性化条件と合う結果が得られた.一方,FimHとの親和性が弱いα6Man2糖鎖は温度上昇によって,複合体内での糖鎖構造安定性が悪化し,親和性が弱くなることが明らかになった.これらの結果を国際学会(TACC2023)にて発表した. 腸管出血性大腸菌によって産生されるベロ毒素のBサブユニット五量体は標的細胞表面の複数のスフィンゴ糖脂質と特異的に多価結合する.この糖脂質が多価結合する複合体結晶構造を出発構造として,MDシミュレーションを行ったところ,単量体で複数の糖鎖を認識する場合と,五量体全体で複数の糖鎖を認識する場合では,複合体の構造安定性および相互作用に大きな違いが見られた.MDシミュレーションのスナップショット構造におけるベロ毒素と糖鎖間の相互作用エネルギーを量子化学計算により算出したところ,各単量体間にまたがる糖鎖―タンパク質相互作用が存在し,タンパク質―糖鎖多価認識において協同的な相互作用が存在していることが明らかになった.これらの結果を,第42回日本糖質学会年会,日本化学会第104春季年会にて発表した.
|