2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K12206
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高部 由季 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (80635839)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光合成細菌 / ゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、海洋における酸素非発生型好気性光合成細菌(Aerobic anoxygenic phototrophic bacteria, 以下AAnPB)の光利用戦略に焦点を当て、AAnPBが実海洋環境中で光を利用することで「元気に」増殖し、「長く」生き残っていることを実証することを目指している。海洋環境中で普遍的かつ時に高率で存在しているAAnPBの光利用戦略を明らかにすることは、海洋全体の有機物循環量と循環効率を正しく見積もる上での科学的基盤となる。 今年度は、岩手県大槌湾における中規模擬似現場培養実験と、愛媛県愛南町マダイ養殖いけすにおける小規模擬似現場培養実験を予定していた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症流行により、長期かつ頻回の出張を伴うそれらの実施が困難となった。そこで、上記培養実験は次年度実施を目指し今年度はその基礎的科学基盤を構築するために、実験予定海域から分離培養したAAnPB分離培養株のゲノム解読、その全ゲノムデータの公開、ゲノム情報を含んだ学術論文の執筆を行い、2報の主著論文として、国際学術誌であるMicrobiology Resource Announcements誌から発表した (Sato-Takabe et al., 2021a;2021b)。本ゲノムデータは、次年度以降の現場培養実験を進める上で、その実験実施予定海域から分離培養したAAnPB株の生理生態学的特性に関する基礎知見として重要である。更に、愛媛県愛南町マダイ養殖いけすから分離したAAnPB培養株については、共同研究者と共にその生理性状試験として、最適増殖条件の検討や細胞内脂肪酸組成分析、キノン分析、基質資化試験を行った。 今年度の研究成果は、次年度以降の現場培養実験の実施および結果の解釈を行う上で、AAnPBの代謝ポテンシャルや生理性状に関して貴重な知見を付与するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の本研究課題の進捗状況としては、当初の計画通りには予定していた実験を遂行することが出来なかったため、「やや遅れている」と判断している。新型コロナウイルス感染症流行により、今年度の実施を予定していた中規模および小規模擬似現場培養実験は、長期かつ頻回の出張を伴うため実施を見合わせた。 そこで、今年度は出張を伴わず室内で実験や解析が行える研究として、実験予定海域から分離した酸素非発生型好気性光合成細菌(Aerobic anoxygenic phototrophic bacteria, 以下AAnPB)培養株のゲノム解読およびその生理性状試験を進めた。ゲノムデータはグローバルオープンデータベースに登録し、ゲノム情報は国際学術誌に2報の主著論文として発表した。 一方、今年度の実施予定であった中規模および小規模擬似現場培養実験については、それぞれの実験海域である岩手県大槌湾および愛媛県愛南町マダイ養殖いけすにおいて実施予定である、観測および実験に関わる共同研究者と、実施日程の調整や実施内容について詳細な話し合いを進めている。愛媛県愛南町マダイ養殖いけすにおいては、今年度実施出来なかった実験をカバーするために当初予定よりも高頻度の実験を予定している。岩手県大槌湾における実験についても実施に向け着実に準備を進めている。以上のことから、今年度の本研究課題の進捗状況の遅れは、次年度でリカバー出来ると考えている。 また、今年度の研究成果である、AAnPB分離培養株のゲノム解読と生理性状試験の知見は、次年度以降の現場培養実験の遂行や、結果の解釈をする上での重要な知見となることが期待出来る。新型コロナウイルス感染症の流行状況を踏まえ、当初予定していた培養実験を実施することは控えたが、その代わりに行ったゲノム解読と生理性状試験を着実に進めることが出来たことは大きな収穫である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策について、次年度は今年度実施出来なかった中規模および小規模擬似現場培養実験の完遂を目指す。当初の計画では、中規模および小規模擬似現場培養実験は今年度から開始し次年度以降継続して頻回の実験を行う予定であった。しかしながら、今年度は年度を通して新型コロナウイルス感染症流行により、長期かつ頻回の出張を伴うそれら培養実験は実施が困難であった。 今後の研究の推進方策として、今年度予定していた実験は次年度に振り替え、当初の予定より高頻度での実験を実施する計画を立てている。それに伴い、当初の実施計画を以下の通りに変更する。 <当初>中規模擬似現場培養実験:2021年5月、2022年5月=><変更後>2022年8月(2022年6月に予備実験を予定) <当初>小規模擬似現場培養実験:2021年7月、11月、2022年3月、8月、12月=><変更後>2022年5月、7月、8月、11月、2023年1月、3月 また、今年度の主な研究成果である実験予定海域から分離培養した酸素非発生型好気性光合成細菌(Aerobic anoxygenic phototrophic bacteria, 以下AAnPB)の全ゲノム解読と生理性状試験については、共同研究者によりその実験および解析費用や論文出版費用が支出されたため、今年度の現場培養実験で使用予定であった研究費は、次年度に繰り越すことが出来た。今年度予定していた実験を次年度予定分の実験と合わせて行うことで、現在の進捗状況の遅れを次年度で取り返す。さらに、今年度の研究成果であるAAnPBのゲノム解読と生理性状試験を次年度の現場培養実験結果と照らし合わせ、環境中でのAAnPBの生態を導く生理学的特性についてより深い解釈を目指す。
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Causes of Carryover |
今年度は、新型コロナウイルス感染症流行により、長期かつ頻回の出張を伴う現場培養実験が実施出来なかったため、予定していた実験費用を使用することが出来なかった。また、今年度の主な研究成果である、実験予定海域から分離培養した酸素非発生型好気性光合成細菌(Aerobic anoxygenic phototrophic bacteria, 以下AAnPB)のゲノム解読と生理性状試験については、共同研究者によりその実験および解析費用や論文出版費用が支出されたため、今年度の現場培養実験で使用予定であった研究費を次年度に繰り越すことが出来た。そのため、次年度は今年度予定していた研究を合わせて遂行するための研究費は十分確保出来ている。今年度実施予定であった現場培養実験は、次年度予定分の実験と合わせて行うことを計画している。
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