2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K12844
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Research Institution | Kyoto Koka Women's University |
Principal Investigator |
稲葉 維摩 京都光華女子大学, 付置研究所, 研究員 (80760008)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 結果相 / 状態パーフェクト / 時制 / 中期インド・アーリヤ語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、上座部仏教のテキストを伝えるパーリ語の過去受動分詞について、その使われ方と表される意味を明らかにすることを目指す。令和3年度においては、テキストから個々の用例を集め、主な過去受動分詞の使われ方を調べた。また、パーリ語の過去受動分詞に対してはいくつかの先立つ研究があるため、これまでの理解とその問題点を整理した。 先立つ研究は、分詞の名称にある「過去」と「受動」をめぐる問題として捉えると整理しやすい。「過去」に関して、過去受動分詞は現在完了を表すとする理解やアスペクトを区別しているとする理解がある。「受動」に関しては、先の現在完了と一緒に、実は受動ではなく、能格という構造の他動詞文であるとする理解がある。こちらは、ヒンディー語などの近代インド・アーリヤ語に連なるものとして重視されてきた。また、過去受動分詞の動作主を標示する際の具格と属格の違いについて、理解が分かれている。 一方、本研究においては、先立つ研究の理解と異なる興味深い事実を見つけることができた。過去受動分詞には受動を否定しえない使われ方がある。本来受動にならない動詞の過去受動分詞があえて受動文を作っている場合すら確認される。したがって、過去受動分詞から受動の性質を除外することは難しいと考えなければならない。また、動作主の標示について、属格の使用に動詞の種類による傾向のあることが確認された。これは具格と属格で意味が区別されていたことを示すものになる。 受動という要素の確認、属格と動詞の種類との関係は、本研究が当初より、現在完了とは異なるものとして過去受動分詞に想定している「結果」を支持するものとして重要である。本研究は先立つ研究と比べてテキストの広い範囲を研究対象としているため、上述の事実を取り出すことができたと言える。このことから、より実態的な過去受動分詞の理解が可能になると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度の研究においては、過去受動分詞の使われ方の傾向が把握しやすいと思われる動詞を中心に、その用例を集めた。また、先立つ研究の理解を確認した。結果として、パーリ語の過去受動分詞に関するこれまでの理解と異なる事実を確認し得た点で、進展があったと言える。 一方、まだ用例調査中の動詞も多数あるため、確実な結果を示すことができるよう努める。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は令和3年度に引き続いて過去受動分詞の用例を収集するとともに、集められた用例から使われ方を精査し、過去受動分詞の表す意味とパーリ語の文法における位置づけを明らかにする。 令和3年度の研究では検討すべき問題点が明確になった。受動をめぐる問題、動作主を標示する格の問題である。すでに、受動の問題に関しては受動を否定し難いことが、動作主の標示に関しては属格の使用に動詞の種類との関連性のあることが令和3年度の研究において確認された。 したがって令和4年度は用例の収集を継続しながら、まず上述の問題の解決に取り組む。これらの問題の解決は、本研究が当初より想定している理解、過去受動分詞が「結果」を表しているということを強く支持するものになると見込まれる。このことを通してパーリ語の過去受動分詞を捉え直し、本研究の成果を論文の形で公表できるようにする。 一方、用例の収集の中心となる範囲を『ディーガニカーヤ』『マッジマニカーヤ』『サンユッタニカーヤ』『アングッタラニカーヤ』という4つの文献に定める予定である。これらは仏や仏弟子の言行録で、多くの物語を伝える、上座部仏教の基本的な文献である。当初はこれより広い範囲の文献を扱う予定だったが、成立年代やテキストの性質の違いからこの4つの文献を中心的に調べる方が、研究の効率と集められる用例の性質の点で適当だと判断される。
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Causes of Carryover |
令和3年度は用例の収集に時間を要したため、基本的な文献以外の物品を購入する段階に到らなかった。また、新型コロナウイルスの影響で学術大会がオンライン開催になったため、実質的な出張が行われなかった。そのため、次年度使用額が発生した。 一方、令和3年度においては研究に進展があったため、次年度は論文として公表できるように研究を進める計画をしている。この段階で、必要とされる図書に費用を当てる予定である。
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