2021 Fiscal Year Research-status Report
The elucidation, reevaluation, and archiving of Michio Ito's dance works at the Ernie Pyle Theater
Project/Area Number |
21K12873
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
串田 紀代美 実践女子大学, 文学部, 准教授 (80790906)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 伊藤道郎 / テイコ・イトウ / 伊藤祐司 / 東洋舞踊 / 民族舞踊 / 郷土 / アーニー・パイル劇場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本の洋舞草創期に活躍した伊藤道郎の舞踊創作と活動実態を解明することである。2020年度の課題研究(19K23021)では、伊藤道郎が総監督を務めたアーニー・パイル劇場で上演された13作品(1946-1947)について分析し、伊藤道郎が劇場専属舞踊団の技量と成長に応じて「和物」から「洋物」へと演出戦略を進める過程で、沖縄、ハワイ、東南アジア、南米の民族舞踊を取り入れた「民族物」を創出したことを明らかにした。この系譜を探るため、戦前期のアジアを題材とした舞踊小作品(Oriental Dance)の分析に焦点を当てた。その結果、戦前期に伊藤道郎が一時帰国した際に実施したリサイタルのプログラムにおいて、複数のアジアを題材とした民族舞踊を確認することができた。 さらに、伊藤道郎の実弟で米国のラジオ・シティ・ミュージック・ホール勤務(衣装・小道具担当)の伊藤祐司と、その妻で日系米国人舞踊家のテイコ・イトウとの関連性に着目した。伊藤祐司は、当時演出手法に行き詰っていたブロード・ウェイのレヴューに活路を見出すため、東洋的な着想を取り入れるという使命のもと1934年11月に妻を伴い帰国した。2人は日本を拠点に東南アジア全域を訪れ、テイコは舞踊を習得し、祐司は舞踊音楽を採譜しながら舞台衣装・小道具製作について学び、舞踊音楽に関する専門書等の収集を行っていたことが当時の新聞記事から明らかになった。さらに日本にルーツを持つテイコは、幼少期から日本への憧れを抱き続けたが、戦時下で自国の民族意識が高まる日本においてテイコが思い描いていた「郷土」は存在せず、それが一方的な「東洋」幻想であったという現実を突きつけられたこともテイコの署名記事から判明した。当時のテイコにとって自身の拠り所となるはずの「郷土」は、現実味のない幻想の国「東洋」であったと結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すでに収集した資料(※1)の翻訳と写真記録の分析、当該年度の収集資料(※2)の考証を中心に、伊藤道郎の東洋舞踊の創作と演出戦略について、特に実弟の伊藤祐司ならびにその妻で日系米国人舞踊家のテイコ・イトウとの影響関係を分析した。すでに収集した資料(※1)とは、早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点令和2年度公募研究「千田資料によるアーニー・パイル劇場の基礎研究―1946年から1948年までの伊藤道郎の舞踊実践とジャンルを越境した活動記録」採択時に収集した伊藤道郎関連資料、ならびにニューヨーク公立図書館パフォーミング・アーツ部門、国立国会図書館の所蔵資料である。資料(※1)の考証、特に1946年から1948年までの上演作品の目録作成(2021年度実施予定)ならびに「ジャングル・ドラム」や「タバスコ」などのアーニー・パイル劇場における上演作品の劇評等を中心とした言説分析(2022年度実施予定)が、予定より早くすすんだため、今年度は2022年度に実施する予定であったテイコ・イトウと伊藤道郎による舞踊リサイタル・プログラムの比較分析と、両者の舞踊レパートリーの特徴の抽出を中心に考証を進め、相互の影響関係を東洋舞踊の観点から考察した。 なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて米国調査が依然として実施できなかったため、次年度に行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画した研究内容はおおむね順調に進んでいるが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、アメリカ合衆国ならびにタイ王国における海外調査の実施を実現することができなかった。そのため、両国の水際対策が緩和された2022年夏に、米国ではニューヨーク公立図書館パフォーミング・アーツ部門での調査、タイ王国では在タイ日本大使館、タイ王国文化省芸術局、タイ王国王立舞踊学校などを訪問し現地調査ならびに資料収集を実施する予定である。 特に、アーニー・パイル劇場における伊藤道郎の手掛けたステージ・ショウ作品の構成・演出手法を検証すると、いわゆる「和物」と「洋物」の橋渡しとして民族舞踊の要素を取り入れた「民族物」が存在する。こうした民族舞踊の着想をどこから得たのかが、今後の研究で最も重要視している点である。そのため、今後は伊藤道郎が米国滞在中に所属した多国籍舞踊団(Ballet Intime)と当時流行していた東洋舞踊(Oriental Dance)との影響関係を探りつつ、ラジオ・シティ・ミュージック・ホールの美術部主任として帰国した伊藤祐司とテイコ・イトウ夫妻が、ブロード・ウェイに東洋芸術の着想を取り入れるために東南アジアを遊歴し、現地で民族舞踊をいかに習得したか、またどのような人物と接触したかについて、現地調査を経て資料収集を行う予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大を受けて米国をはじめとする海外の調査活動を実施することができなかったため、次年度に国外調査を試みる。以下に、2022年度の課題遂行のため、8月には在タイ日本大使館、タイ王国文化省芸術局、タイ王国王立舞踊学校の調査を実施し、9月には米国国立公文書館、ニューヨーク公立図書館パフォーミング・アーツ部門の調査と資料収集を行う予定である。
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Research Products
(2 results)