2022 Fiscal Year Research-status Report
Venetian Artists and Catholic Patronage in Bavaria in the 16th Century
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21K12877
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久保 佑馬 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD) (10898779)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 西洋美術史 / ルネサンス美術 / アルプス南北の美術交流 / カトリック改革 / ティツィアーノ / 石板油彩画 / ランベルト・シュストリス / アウクスブルク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、シュマルカルデン戦争(1546~47年)終結後、カトリック改革(対抗宗教改革)が黎明期を迎えていた南ドイツにおいて、ヴェネツィア・ルネサンスの芸術家たちがどのような活動を行い、聖職者や商人たちの主導するカトリック改革と協調したか解明することを目的としています。本年度は、ティツィアーノ及び彼の弟子ランベルト・シュストリスが、1550年前後にアウクスブルクで制作した作品群の分析を進めました。 ティツィアーノは1548年にアウクスブルクを訪問した際、神聖ローマ皇帝カール5世に対し、「エッケ・ホモ」(プラド美術館所蔵)を贈呈しましたが、この作品は当時としては珍しいスレート(粘板岩)を支持体としました。本年度は、ティツィアーノがなぜスレート油彩技法で「エッケ・ホモ」を制作し、皇帝に贈呈したのか考察し、国際美術史学会(CIHA)へ英語論文を投稿しました。同論文では、7年後にティツィアーノが「エッケ・ホモ」の対作品として献呈した大理石油彩画の「悲しみの聖母」についても検討を加え、両作が、16世紀後半以降ヨーロッパ規模で流行する石板油彩画の歴史にとって、画期的な転換点となったと示しました。論文は2023年中に公刊予定です。 シュストリスに関しては、昨年度投稿した『地中海学研究』掲載論文の校正を終えたのち、シュストリスの画歴全体を改めて再構成し、アウクスブルク滞在期の更なる作例の特定と様式的特徴の分析を進めました。シュストリスは美術史的重要性のわりに、国際的にも研究途上段階にある芸術家であるため、本年度の研究成果は、2023年度に英語論文で執筆、投稿を行う予定です。2023年1~2月に実施したイタリア、ドイツでの研究調査では、シュストリスに関する新史料を収集し、イタリアの研究者と研究協力を進めました。 以上の研究成果は、本研究期間中に執筆完了する単著にも所載される予定です。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、1年目となる2021年度にパリス・ボルドーネのアウクスブルク滞在、2年目となる2022年度にランベルト・シュストリスのアウクスブルク滞在、3年目の2023年度にティツィアーノの「エッケ・ホモ」と石板油彩画の歴史に関する研究を遂行する計画でした。その計画に照らせば、ティツィアーノの「エッケ・ホモ」に関する英語論文を2022年度中に執筆できたことは、当初の計画以上に研究が進捗していることを示します。一方で当初は、パリス・ボルドーネやランベルト・シュストリスに関しても、2021~22年度中に英語やイタリア語で論文投稿に着手することを目標に掲げており、この海外での論文投稿については、新型コロナによる渡航制限や海外研究機関の利用制限の影響もあり、十分に進捗してこなかったのが現状です。2023年1~2月はイタリアとドイツに滞在し、フィレンツェ、ピサ、ミュンヘンの研究機関で調査を実施できた他、ヴェネツィア・ルネサンス美術史を専攻するイタリア人研究者とも、ランベルト・シュストリスについて協力を進めることができ、欧米水準での研究活動を、少しずつではありますが再開しました。こうした研究成果を国際的な場で発表・刊行する活動は、新型コロナの影響が緩和されるであろう2023年度以降に本格化させる予定です。以上の通り振り返ると、計画以上に進捗した部分と当初計画に達していない部分が併存しているのが現状で、全体としては「おおむね順調」と総括します。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り当初の計画では、3年目となる2023年度は、ティツィアーノの「エッケ・ホモ」とヨーロッパにおける石板油彩画の歴史に関する研究を遂行する予定でしたが、この課題に関しては、2年目の2022年度中に英語論文を執筆するところまで進捗しましたので、2023年度は、4年目の計画課題である「ティツィアーノのアウクスブルク滞在とシュマルカルデン戦争後のハプスブルク宮廷の戦勝プロパガンダ形成」の研究に着手したいと思います。特に1548年のティツィアーノによるアウクスブルク訪問が、シュマルカルデン戦争で勝利を収めたカール5世による戦勝プロパガンダ形成と密接に関わっていたことは、グンター・シュヴァイクハルトらの研究者によって指摘されてきましたが、個々の具体的作例に沿った考察は研究課題として残されており、2023年度はその調査・考察に充てる予定です。2023年度中に日本国内の学会で口頭発表し、学術誌に論文投稿するのが目標です。加えて、海外研究者から勧められている、ランベルト・シュストリスに関する英語論文の執筆・投稿も2023年度中の課題と位置づけています。本研究期間内に、課題テーマに関する日本語・欧語での単著の執筆完了を目指していますが、日本語の単著に関しては、4年目となる2024年度に完成できるよう、2023年度に大部分を執筆しておこうと日々努力しているところです。
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Causes of Carryover |
バイエルン地方を中心とする南ドイツにおいて、16世紀中葉のカトリック改革(対抗宗教改革)に関連した美術パトロネージが、同時代のヴェネツィア派芸術家たちの活動にどう結びついたか解明する課題ですので、研究期間中は、イタリア、ドイツをはじめとするヨーロッパ各国での研究機関、美術館等での文献・作品の調査、専門研究者たちとの意見交換・協力が必要となります。しかし2022年中頃までは、ヨーロッパにおいても、新型コロナの感染拡大防止を目的とした様々な規制が敷かれていたため、研究活動を円滑に営むのが難しい状況が続いており、ヨーロッパに渡航しての研究は控えざるを得ませんでした。その分の旅費が2021年度以来繰り越されていますが、2023年以降は年2回程度の定期的なヨーロッパ渡航と現地での調査活動を計画しており、繰り越された旅費を利用して、有意義な調査旅行を遂行できるよう、日本でも入念な準備を行っております。海外の学術誌への投稿機会も増える見込みで、そのためのネイティブ・チェック等で、謝金も利用させていただく予定です。
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Research Products
(2 results)