2022 Fiscal Year Research-status Report
包括的な音韻現象分析に基づく統語構造から音韻表示への写像の解明
Project/Area Number |
21K13026
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Research Institution | Hirosaki Gakuin University |
Principal Investigator |
齋藤 章吾 弘前学院大学, 文学部, 講師 (40883674)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | コピー削除 / 線形化 / 接辞付加 / 音韻句形成 / 省略 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、統語構造を音韻部門へ送る排出という過程について明らかにすることである。2022年度は、前年度の研究成果に基づいた排出理論の構築を試みた。 まず、コピー削除、線形化、接辞付加、音韻句形成の相対的適用順序に対して、コピーの可視性を基準にしてそれぞれの音韻過程の適用プロセスを整理し、排出の理論の構築を試みた。より具体的には、Chomsky (2013, 2015)のラベル付けに基づく仮定のもと、ラベル付けの問題を引き起こすコピーは統語部門における削除を適用される一方、ラベル付けに用いられるコピーは音韻部門へ送られた後、発音される一つのコピーを残して音韻部門における削除を適用されるという提案をした。そして、この提案における各コピーの可視性に基づき、線形化は統語部門のコピー削除適用前、形態的接辞付加は形態部門、音韻句形成は音韻部門のコピー削除適用前、音韻的接辞付加は音韻部門のコピー削除適用後に、それぞれ行われると分析した。この研究成果は『東海英語研究』(Tokai English Studies) 第5巻, 85-100に収録されている。 また、前年度の研究では十分に取り扱うことのできていなかった省略現象の適用について、英語のNull Complement Anaphoraがその内部からの顕在的抜き出しを禁じる一方で非顕在的抜き出しを許す事例があることを観察し、この省略現象の適用が抜き出しの移動よりも前に適用されると主張した。この研究は、Aelbrecht (2010)、Park (2017)らの研究と併せて、統語部門における省略適用を示唆するものである。本研究は、前年度の右方移動の研究で観察した右方移動と省略現象との間の関係性をより明らかにするものとなっている。この研究成果は、日本英語英文学会第32回大会の研究発表で発表されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、複数の音韻現象を包括する一貫した排出理論を提案する研究を設定していた。 そして、実際に前年度の研究成果に基づいて、複数の音韻現象を取り扱う排出理論の提案を行った。本年度の研究は前年度の研究と併せて、派生的な排出理論(構造構築の段階で複数回にわたる排出を行う理論、Multiple Spell-Out)における各音韻現象の適用プロセスを明確化することにつながっている。具体的には、前年度の研究では、「線形化が段階的に起こる一方で、コピー削除が段階的に起こらないように思われる(正確には、線形化とそれに課せられる音韻的制約の評価が全てのコピーを対象にしている)」という示唆を得たが、これを、「コピー削除が線形化の後に起こる」という順序関係によって説明した。 また、前年度は十分に取り扱えていなかった省略現象についても、移動現象との関係を調査することによって、音韻現象の包括的分析につながる成果を得ると共に、前年度の研究の成果に対する理論の提示につなげている。具体的には、「段階的な線形化に対して、その結果に影響を与えるようにして省略も段階的に適用されている」という示唆に対して、「省略"標示"が統語部門で行われている」と論じることで部分的な説明を与えている。 上記のように、前年度の研究に対して一定の説明を与える研究を行うことができたが、調査した音韻現象の全てから排出理論の根拠を得られたわけではない。また、強勢やイントネーションなど、扱いきれていない現象も存在する。 これらの点により、自身の研究を「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、2022年度に提案した排出理論の理論的意義の検証を試みる。具体的には、この排出理論が統語部門と音韻部門へ与える示唆の探求や、音韻部門への写像と意味部門への写像を合わせたインターフェイスに対する示唆の探求を試みる。また、その過程でさらに経験的帰結も探求していく。 特に、提案した派生的な排出理論と最新の生成文法の研究との整合性の考察を行いたい。最新の生成文法の研究では外在化プロセスが曖昧なままにされていることが多いため、上記の研究が成功すれば意義のある研究になると思われる。 調査結果は研究発表や論文の形で発表し、他の研究者から意見をもらうことでより精度の高い調査・検討を行うように努力する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、研究打ち合わせや学会がオンライン開催になったことで旅費が不要になったというものである。 令和5年度になって対面での学会が増えてきているため、本年度は学会発表のための旅費等に用いることができる見込みである(実際、5月20-21日に行われた日本英文学会第95回大会での学会発表のための旅費として既に使用している)。また、研究資料の購入などに充てることも予定している。
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