2012 Fiscal Year Annual Research Report
エイズパンデミック発生の謎をコンゴ盆地最奥部への探訪で解き明かす研究
Project/Area Number |
22256001
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
井戸 栄治 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 特任教授 (70183176)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
生田 和良 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (60127181)
中村 昇太 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (90432434)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | HIV / エイズ / 感染症 / 分子疫学 / 進化 / コンゴ民主共和国 / コンゴ共和国 / ウイルス |
Research Abstract |
エイズウイルスのパンデミック、即ちその病原体であるHIVが世界に拡大蔓延し始めた最初の場所が中央部アフリカ地域内の何処かであろうという説に研究者らの間で異論はない。しかし、いつ、何処で、如何にして人間社会に拡がったのかについては、まだ明快な答えが出ている訳ではない。本研究では、この疑問に答えるべく、諸外国並びに我々自身のグループによって従来為された数々の調査の結果ウイルス遺伝子の多様性が最も高かったコンゴ盆地内に焦点を絞り、可能な限り多くの地域から集めた検体を分子疫学的に解析することからエイズパンデミックの謎を解き明かすことを目的としている。 今年度は、昨年に引き続きコンゴ川の様々な支流が合流するコンゴ民主共和国の赤道州に特に注目し、その地域に住むエイズ患者からの検体を解析した。これまでに解析済みのものと合わせて合計78検体のpol領域の配列に基づく分子系統解析の結果は、最も多いサブタイプAに続いてG、D、F、CやUなど他の地域では決して見られない実に様々な株が同時に流行していることが明らかとなり、この地域がパンデミック発生の起源地として極めて可能性が高いことが判明した。 またこの解析では、次世代型DNAシーケンサーを利用して解析方法自体の改良・刷新を目指していたが、今年度は特に世界中のデータベース上にあるすべての配列データと照合することにより、感染しているウイルス株の同定を短時間の内に明らかにするシステム化に成功した。その結果、赤道州だけでも2つ以上の株に同時感染(重感染)している患者が少なくとも3名はいることが明らかとなり(その内一人は3重感染)、この地域が単に多様性が高いばかりでなく、異なった株同士の間で遺伝子の組み替えを起こすリコンビネーションにより、それまでにない全く新しい遺伝子構成を持つ新型のHIV株を生成している現場である可能性まで示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の欧米の研究者らによる発表では、HIVの祖先ウイルスはカメルーン南部の森林地帯に生息するチンパンジーが持つHIVに類似のサルエイズウイルスSIVで、それが人間社会に入り込み、ウイルスとヒトとの感染サイクルの中で今日のHIVが生まれたとされている。しかし、この仮説には、チンパンジー種の中でのSIV保有率が低いこと、またカメルーンのHIV遺伝子型分布状況が欧米諸国に比べれば多様性が高いとはいえ、お隣のコンゴやコンゴ民主といった国からわずかに得られていた報告に比較してリコンビナント株の割合が高く、起源地と考えるにはいささか不自然さがあると以前から本研究代表者は考えていた。欧米の研究者の場合、カメルーンには直接提携している研究機関などがあり調査がやり易かったこと、またコンゴ民主やコンゴ共和国では政情不安が長く続いており調査自体に入り難く、限られた情報の中で上記の状況に至ったものと思われたのである。 本研究代表者は、その欧米の研究チームが踏み入ることを躊躇していた時代から小規模ながら現地研究機関との協力関係を地道に続けていたため、治安状況が徐々に改善しつつある中で、他国に先駆け各地域の、特に首都から遠く離れた辺境の地域を訪れることに成功しており、今までにコンゴ川盆地の周辺部、中心部など主だった地域をほぼ隈なくカバーしつつある状況にある。 これまでの調査結果によると、研究開始前に予測した通り、コンゴ盆地のHIVの遺伝子の多様性は他の何処の地域よりも大きく、他の国では報告の無い新しい型の株も多数流行していることが明らかとなっている。エイズパンデミックの発生は、このコンゴ盆地内である可能性が益々高くなっていると言えるだろう。収集されながら未だ解析が終了していない検体等もあり、今後の調査の続行と解析によって、当初掲げた疑問が解き明かされるゴールは十分射程圏内に入っていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題で調査対象としているコンゴ民主、コンゴ共和国から採集していながら、未だ未解析の検体が残っている。今後は、先ずそれらの解析を粛々と進めることを最優先課題とする。特に、これまではpol領域の部分配列を中心に解析していたが、その株が極めてユニークであると判明した場合には、その株の特異性をさらに明らかにすべく、その解析領域を拡げる必要もあるであろうと考えている。 また本研究課題を推進するに当たり、患者から得られたHIVの遺伝子型が系統樹上のどの辺に位置するのか手っ取り早く見当を付けるために、いわゆる次世代型のDNAシーケンサーを導入し、それを駆使することにより、従来型のDNAシーケンサーでは到底不可能な超高速解析手法を開発することも目標としていた。ところが、研究開始の1~2年目までは担当者が機械操作に習熟することに追われ、十分にその機能を駆使しているとは言えない状況であったことは否めなかった。しかし、平成24年度にはこの面でも大きな進展があり、今では世界中のデータベースと照合するシステムが確立している。 今後最も肝要なことは、これまでに得た実験データを少しでも多くの研究論文として仕上げることであり、そこに主力を傾注する方針である。
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Research Products
(6 results)