2013 Fiscal Year Research-status Report
困難を抱えた子どもの育ちに対する子どもカルテの導入と包括的支援システムの構築
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24500915
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Research Institution | 埼玉純真短期大学 |
Principal Investigator |
稲垣 馨 埼玉純真短期大学, その他部局等, 講師 (80512045)
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Keywords | 育ちに困難を抱える子ども / 発達障害 / 保幼小連携 / 包括的支援システム / 切れ目のない支援 |
Research Abstract |
今年度は昨年度の調査をもとに作成した「ベースカルテ」の導入とその改訂版である「子どもカルテ試行版」(以下試行カルテ)の作成、並びに子ども支援の一元化に向けての地域のネットワーク作りが研究実施計画の中心であった。 (1)ベースカルテ導入結果の検討と試行カルテの作成 今年度はベースカルテを想定した事例に導入することで、運用上の課題を探った。さらに形式と内容の吟味を行った結果から、試行カルテを作成した。 ベースカルテ導入後、現場の教職員に対して聞き取りを行った結果、情報ツールの問題点として守秘義務や保護者への開示の問題などで取扱いの難しさが指摘された。また現場で使用した場合、現状の問題解決に直結する内容ではないため、実際に教員や保育者側にとって使用するメリットが少なく、より実践に即時的に役立つものを求める声が高かった。加えて、従来県によって作成され導入が推奨されているサポート手帳や保育園、幼稚園が就学時に作成する要録と内容が重複しないものが望ましかった。そのため試行カルテではベースカルテに大まかなアセスメント機能と支援へのヒントを含んだフローチャートと教職員向けの簡単なガイドを加えた。 (2)支援の一元化に向けて関係諸機関をつなぐ支援ネットワークの構築 今年度は従来の小学校への巡回相談や研修会の実施に加えて、H市の教育支援員を対象にした研修会や高校での研修会を実施することで、横断的、縦断的な支援ネットワークの拡大を目指した。研修会ではいずれも特別支援教育に限定することなく、幅広い発達支援や予防的な支援の視点も含んだ、子どもの育ち全般への支援に関する内容とした。このように研修会の内容を工夫することで、教職員にとって、特別支援教育に偏らない、より広く育ちに困難を抱える子どもへの理解と知識を深める機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は教育委員会の協力が得られない部分や業務上の制限もあったことなどが、研究の進捗状況に多大な影響を及ぼす結果となった。今年度も体制上に大きな変化はなかったが、昨年度から引き続き学校現場への地道なアプローチを行った結果、特定の園及び学校に関しては研究協力体制が整いつつある。さらに今年度は従来の巡回相談の対象が高校まで広がったことによって、子どもの発達支援について、より長期的な視点で取り組む重要性を改めて認識することが出来た。また校種間の教員文化の違いや特別支援教育に対するニーズの違いを明らかにすることによって、研修会の内容にも差別化を図った。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本研究の最終年度に当たる。これまでの成果を踏まえて、さらに発展的な研究を推し進める必要がある。 今年度作成した試行カルテの改訂版となる子どもカルテが現場で活用されるためには、実際の支援に対して、カルテに盛り込まれた情報がどのようにつながって役立つのかということを教職員が理解し、情報ツールとしての子どもカルテの価値を認識することが前提となる。つまり教職員が、発達の時間軸上に支援や実践は切れ目なく続いていく必要があり、支援の連続性の中で現状の支援や実践がどのように位置づけされるのか、といった縦断的、包括的な視点を持つことが必要であろう。そのためには、ツールの開発と並んで、教職員の理解を深める研修の拡充がさらに求められよう。今後は従来の教育相談における個別事例へのアプローチと並行しながら、学校ごとの取り組みをより共通化、体系化した研修会の実施を模索することで、横断型のネットワークシステムの充実を図りたい。 また来年度はH市にスクールクラスター制度が試験的に導入される予定である。新たな試みとの協働的、相乗的な支援システムの拡充を目指したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
支援体制の拡充が難航し、数多くの学校現場に出向く機会が得られなかったことで交通費等の必要経費が持ち越された理由としてあげられる。 次年度は研究の最終年度に当たる。来年度見込まれる費用としては、調査協力者に対する謝金や交通費等の経費が増える予定である。
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