2012 Fiscal Year Research-status Report
直感的問題発見とピアレビューのスキルを高めるアカデミックライティングの学習環境
Project/Area Number |
24501147
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
鈴木 聡 青山学院大学, ヒューマン・イノベーション研究センター, 助手 (70516377)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 宏昭 青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (50192620)
杉谷 祐美子 青山学院大学, 教育人間科学部, 准教授 (70308154)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アカデミックライティング / ピアレビュー / CSCL / 協調学習 / 批判的思考 / 教育工学 / 学習科学 |
Research Abstract |
前年度までICTを活用したアカデミックライティング(AW)学習支援システムの構築と評価を進めてきた.まず,WebベースのAW学習支援システムの構築を行い,実際の授業での運用を通して評価を行ってきた.その中で,AWにおける文献読解の際に文献の詳細な吟味による「何を書くか」の発見が行えるよう,文献への下線・コメントの付与を行う機能を備えた.さらに文献の詳細な吟味の際に有効とされる学習者の直感的・感情的思考方略を誘発する機能も加えた.加えて,学習者同士で他者の下線・コメントにコメントを加える協調学習の機能も備えた.これらについてはすでに形成的評価を行い論文として発表しているが,論文の中での検討が不十分であった既存のAW学習環境や学習方略に関する研究や授業実践の事例との比較をさらに加え,レビューを行い学会で報告し,議論を行った.引き続きこれらの研究に加え,問題発見や態度・行動変容に関する心理学の基礎的研究やその応用事例に関する文献についても手広く調査の対象とし,レビューを進めている. また,構築したAW学習支援システムの授業での活用も進めている.従来通りの文献への下線・コメントの付与と学習者同士の相互コメント活動に加え,今後のシステムの改善方針を発見するため,上記のレビューの中の先行研究に着目し,文献読解の際のコメントに際し,従来の下線・コメントに加え,文献全体で評価できる点について下線を引かずにコメントを行うという活動を行った際の意見文の質の変化を評価する試みを行いデータを収集した.現在このデータの分析を行っている最中である.このデータを含め,学習支援システムの機能追加や読解方略に違いをつけた形での授業実践のデータが蓄積されており,これまでのAW学習環境・学習方略に関する先行研究や授業実践の事例と照らし合わせ,学習環境の改善につながる知見を抽出する試みを進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
授業データの収集や関連する研究や授業実践の事例のレビューを進めているものの,今後のAW学習支援システムの改善やAW学習環境・学習方略の大幅な改善に寄与するような知見がいまだ得られていない.現状でも既存の知見をもとに仮説を立て,データの分析を進めてゆくことは可能であるが,このままデータの分析を進めて知見を得られたとしても既存の研究に対する少々の知見の上積みにとどまり新規性・有用性の高い知見を得られる見通しが立たないため,当初の予定と比べると遅れていると言わざるを得ない.既存のAW学習環境の普及という視点で,研究や学内外の他の教員を巻き込んだ授業実践を推進するという方略もありうるが,本研究はあくまで新規性・有用性の高い学習環境の構築・学習方略の発見に重きを置きたいと考えている. また,これまで構築・運用してきたWebベースのAW学習支援システムに関して,当初は研究代表者自身により開発・運用を一手に進めていたが,途中から外部業者への開発委託に切り替えた.しかし,この業者が業種転換に伴い開発委託業務を終了してしまったため,大幅な機能改善の要求ができない状況にある.他業者への開発委託への切り替えには当初の想定額を大幅に上回る予算が伴う.このため機能の改善に関する議論についても再考を迫られている状況である.従来通りのシステムの運用や,システムの大幅な機能改善を伴わない形での学習方略の検討については可能な状態ではあるが,大幅なシステムの改良を要する検討を行うには再び研究代表者自身による開発の検討が迫られているのが現状である.この制約を考慮した今後の研究の方針の再考が必要といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,収集した授業データの整理やAWを含めた学習環境・学習方略に関する先行研究や授業実践の事例のレビュー,そして近年のソーシャルメディアやeラーニング環境の調査を通した,高い新規性・有用性のある知見を得られる授業データの分析やAW学習支援システムの開発が必要といえる.これまでAWにおける文献読解を通した問題発見の段階について直感的・感情的思考を通した問題の切り出しと協調学習による問題の洗練という段階として位置づけてきたが,その後に問題の定式化,つまり考えてきた問題を整理し,レポートや論文のアウトラインなど,文章の形に近づけるプロセスが残っている.このプロセスに関してはAWの学習環境の研究としても授業実践としてもほとんど開拓されておらず,検討の余地が十分にある.問題の切り出し,問題の洗練の段階についても革新的な知見を得られる余地はまだ残っている可能性もあるが,問題の定式化の段階については高い新規性・有用性のある研究・授業実践を行う上で特に注目すべき点として考えている.ここに着目したAW学習支援システムの開発や授業実践を行いたいと考えている. また,これまで主張型レポートの作成に関する授業実践を中心に研究を進めてきたが,他のタイプのレポートへの応用可能性も考える必要がある.たとえばあらかじめ主張の見通しが立っていることがほとんどで,得られたデータから見通しの立った主張とのすり合わせや論証の模索が重要となる理工系の学生実験のレポートは,これまで着目してきた書き手の主張を文献からの問題発見から組み上げる主張型レポートとはプロセスが異なる.学生実験のレポートに関しては研究や教育実践の事例が豊富にあるが,これまで本研究が着目してきたような学習者の問題発見プロセスを前提としたレポート作成に関する研究はない.このような応用場面に着目した授業実践・研究についても準備を進める考えである.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者の所属変更に伴い,研究環境の再整備が必要となる.そのため,AW学習支援システム開発を中心とした研究推進の際に必要なPCなどの計算機環境,システムを運用するためのWebサーバ用のPCやネットワーク周辺機器,各種データのバックアップのためのストレージ,授業内容の記録のためのビデオカメラなどの各種記録機器,統計処理等を行うソフトウェア,多様な学習場面を想定したタブレットなどの各種端末の整備が必要となる. また,文献調査や授業実践の結果の報告を中心として,関連の学会・研究会(日本教育工学会,電子情報通信学会,情報処理学会,人工知能学会,日本認知科学会,教育システム情報学会など)にて発表を行い,今後の研究方針について積極的に議論を深める方針である.これに伴う旅費・参加費が必要となる.そしてこれまでの研究についてもさらに文献調査を進めた上で英語で論文とし,国際ジャーナルへの投稿を行う計画である.これに伴う英文校閲料も必要となる.
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