2012 Fiscal Year Research-status Report
博物館における全天周科学映像の開発および評価に関する人文・社会学的研究
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24501275
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
松岡 葉月 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 研究員 (80573740)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 博物館学 / 博物館映像展示学 / 博物館教育学 / 全天周科学映像 / 博物館観客調査 |
Research Abstract |
今年度は、研究者による全天周映像の制作・普及という国内でも初の試みにおいて、対処すべき課題が明確化できた。制作の過程においては、試験投影を踏まえて、進化著しいプロジェクター性能の画像精細度に与える影響が想定以上に大きいことが明らかとなった。全天周映像における画素値とプロジェクター性能の関連において、視聴者の高精細画像に対する識別能力は、工学的分野においても十分に調査が進められておらず、学術的にも有益な調査課題を得られた。本研究では、学術・教育目的の普及の観点から、全天周映像の構成要素(連番画像と音声ファイル)を無償提供しているが、編集に係る高額な発注経費の事情により、上映は編集施設をもつ館に限定せざるを得ない課題もある。しかしながら、上映した館での視聴者からの高評価を踏まえて、文理融合的観点からの学術映像が、幅広い視聴者に受容される可能性について、各館に理解を得られつつある。 全天周映像は、臨場感や没入感を与えやすい反面、通常の平面映像とは異なる視聴環境や視聴特性が生じるため、平面映像との比較を踏まえて視聴特性を分析する必要がある。今年度は、双方の投影方法において協力館を得られ、アンケートなどにおいて、理解度や満足度などを5段階評価する回答、および自由記述の言葉に基づき視聴特性を分析している。全天周映像ならではの臨場感や没入感については、過去の記憶や経験等、これまでに成されていなかった人文・社会学的側面から回答を得られている。さらに、文理融合的観点から制作した映像の視聴特性を分析するにあたり、視聴者個人に属する要因の他に、博物館立地条件という新たな検討課題も見出せた。 以上の研究成果を博物館学や天文学関係の国内外の学会等で発表した。発表に際し、宇宙・天文分野に近接する分野で立体映像を開発している研究者から、全天周映像ならではの臨場感を見出すための新たな調査指針も得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の想定以上にプロジェクター性能が著しく進化し、画素値そのものによる影響が一段と減少し、ドームスクリーンへの高精細画像の投影が可能なことが、試験投影を踏まえて明らかとなった。これに加えて、ドームスクリーンの仕様も投影画像に与える影響が大きいことも明らかとなった。このため、単に画素値を改良して全天周映像化する作業で完結せず、画素値、プロジェクター性能とドームスクリーン仕様の相互観点に加えて、視聴者の高精細画像に対する識別能力も考慮し、全天周映像化の検討を重ねる必要性が生じた。工学的分野においても、全天周映像における画素値とプロジェクター性能の関連において、視聴者の高精細画像に対する識別能力は十分に調査が進められておらず、学術的にも有益な調査課題であるため、今後も十分な検討を重ねていきたい。 本研究では、学術・教育目的の普及の観点から、なるべく多くの博物館・科学館で取り扱いを頂くため、全天周映像の構成要素(連番画像と音声ファイル)を無償提供している。にもかかわらず上映協力館を募ることが難しい現状がある。まず、投影では、各博物館等のドームスクリーンの仕様に応じた編集作業を必要とする。しかし編集設備をもつ館は少なく、番組製作会社に編集を発注する館が大半である。編集に係る高額な発注経費の事情により、上映は編集施設をもつ館に限定せざるを得ない課題も生じている。加えて、家族向けの娯楽的内容を好む博物館等が多い現状がある。これに対しては、上映した各博物館での視聴者からの高い評価を踏まえて、文理融合的観点からの学術映像が、幅広い視聴者に受容される可能性をアピールする活動を通して各館に理解を得られつつある。今後も各館の事情を踏まえて協議を重ね、上映協力館を募る活動を継続していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、全天周映像ならではの臨場感や没入感を決定づける要因についての設問方法を特定でき、視聴者から過去の記憶や経験等、これまでに成されていなかった人文・社会学的側面から回答を得られている。また、画像・音響(ナレーション,BGM)など、視聴覚の分野や、文理融合的観点における映像の視聴特性の分析においても、有効的な回答が得られている。今後さらに、臨場感や没入感を決定づけるための要因を特定化するために、引き続き上映協力館を募り、平面版映像との比較をしつつ解析を進めたい。現在、工学的分野においても、全天周映像における画素値とプロジェクター性能の関連において、全天周映像に対する視聴者の高精細画像に対する識別能力は十分に調査されておらず、同時に、この点についても解析を進めたい。 全天周映像と同様に、視聴者に臨場感や没入感の効果を与えると予測されるものに、立体映像(3D)や4Kなどの高精細な映像がある。それらの画像と全天周映像の臨場感や没入感との差別化を図るために、立体映像(3D)や4Kなどの高精細映像に関する研究者と情報交換して調査を進める。具体的には、教育普及用として、立体映像や高精細な画像コンテンツを作成し、教育普及事業を展開している宇宙・天文系の研究者のサイエンス・カフェや出前授業の場に赴き、参加者へのアンケートやインタビューを通して調査を進めていきたい。以上の研究成果については、博物館学、天文学関係の学会等で発表し、専門家と意見交換したい。 これらの調査を通して、本研究における全天周映像の構成要素となるドームマスターの連番画像について、臨場感・没入感を深める場面を特定し、画像精細度を高めるための加工を施す。また、新たに加えると効果的と思われる画像について検討し、ドームマスターの連番画像を作成し、全天周映像ならではの臨場感・没入感を与えるのに効果的と思われる全天周映像を作成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、本研究の目的である全天周映像の効果、特に、臨場感や没入感を決定づけるための要因を明確化するために、引き続き、平面版映像との比較をしつつ解析を進めるとともに、画素値とプロジェクター性能の関連において、全天周映像に対する視力の識別能力について調査と解析を進めたい。今後、更に上映協力館を募り、いくつかの上映館でアンケートやインタビュー調査を進めるための旅費を計上する。また、調査においては、必要に応じてアルバイトを雇用して視聴者からの回答分析作業を進めるために、アルバイト謝金を計上する。 また、全天周映像ならではの臨場感や没入感の特性をより明確化するために、立体映像や高精細な映像に関する研究者と情報交換して調査を進める。具体的には、教育普及用として、立体映像や高精細な画像コンテンツを作成し、教育普及事業を展開している宇宙・天文系の研究者のサイエンス・カフェや出前授業の場に赴くための旅費を計上する。同時に、参加者へのアンケートやインタビューを通して調査を進めるため、必要に応じてアルバイトを雇用して調査分析作業を進めるためのアルバイト謝金を計上する。 これらの調査を通して、本研究における全天周映像の構成要素となるドームマスターの連番画像について、臨場感・没入感を深める場面を特定し、画素値を高めるなどの加工を施すため、加工費および人件費を計上する。また、新たに加えると効果的と思われる画像について検討し、ドームマスターの連番画像を作成するための製作費および人件費を計上する。 研究成果については、適宜、博物館学、天文学関係の学会等で発表し、専門家と意見交換を図り研究を深めるため、学会への参加費と旅費を計上する。
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Research Products
(4 results)