2012 Fiscal Year Research-status Report
古典の中の環境と子ども―〈困難を克服する子ども物語〉の教材化に向けた臨床的研究―
Project/Area Number |
24531225
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ube National College of Technology |
Principal Investigator |
中井 賢一 宇部工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (90580960)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 日本古典文学 / 教材開発 |
Research Abstract |
本研究の目的は、「学習者の多読を促進できる教材の不足が『古典(古文)ばなれ』の一因である」との現状認識のもと、学習者が自身を重ね合わせやすい(=心的距離の近い)物語、且つ、学習者が未来に向けた規範にしやすい(=成長への意欲を喚起する)物語を集成したリーディング教材を高校現場向けに作成し、古文の多読を促す指導環境を整備することにある。すなわち、学習者自身が「環境」との関わり方に思いを致せるような〈困難を克服する子ども物語〉を、新資料も含めできる限り多く教材化し、極力、申請者自身が学習者への効果を臨床的に検証した上で、「テキスト」・「注釈」・「指導案の例」から成る「教材」としてまとめ、現場の教員向けに広く公開できる体制を整えることが最終目標である。 そのため、三年の研究期間のうち、第一年目に当たる本年度は、平安期の物語作品について上記目標に沿って教材化を進めつつ、平行して鎌倉・室町期物語の資料収集を行った。 プレスタディを十分に踏まえて作業が出来たこともあり、『源氏物語』『落窪物語』『うつほ物語』については順調に教材化が進み、上記「目的」に合致した新奇性の高いサイドリーダーとなろう。但し、『住吉物語』等、一部次年度にも作業を継続せねばならない作品も残っており、鋭意努力したい。 鎌倉・室町期の資料収集についても、概ね計画通りに進んでおり、教材に相応しい場面の抽出を、並行して行っている。 なお、具体的成果については、二本の学術論文として公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究期間は、平安期の物語作品について教材化を進め、平行して鎌倉・室町期物語の資料収集を行う1年目、引き続き鎌倉・室町期物語の資料収集とその具体的な教材化を行う2年目、そして、ここまでの成果の再検証と発信を行う3年目、と大きく区分される。 本年度については、平安期物語作品の教材化と鎌倉・室町期のそれらの資料収集を中心に行ったのであるが、後者については、ほぼ計画通りの収集、分析状況である。前者についても、概ね計画に即して進行しているが、一部『住吉物語』についての教材化が当初計画よりはやや遅延ぎみであった。とは言え、拙速に陥らないよう注意を払いつつ作業を継続することを優先したい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、鎌倉・室町期の物語資料の収集分析の継続と、鎌倉・室町期の物語作品の〈困難を克服する子ども物語〉の教材化とを二つの柱に据える。 前者については、概ね24年度と同様に進めるが、本年度は、具体的な教材化を進めるため、資料収集そのものよりも収集した資料の内容と教材価値の吟味により力を入れることとする。後者については、本年度は、鎌倉・室町期の物語を対象に、昨年度同様、〈困難を克服する子ども物語〉の教材化を進める。「テキスト」作成のための本文は24年度に準備したものを順次使用する。鎌倉・室町期の物語といえば、検定教科書では軍記物語が採用されることが多いが、本研究においては、子どもが死や戦と関わるストーリーは、教育的見地からできる限り避け、いわゆる中世王朝物語を中心に取り上げ、適切に教材化したい。なお、本年度の成果を中間まとめの形で論文にし、前年度同様、公表する。 最終年度となる平成26年度は、これまで蓄積してきた成果の再検証を行い、具体的な「教材」として編集した上で、公開発信できるようにする。本年度は、本格的に「教材」編集を行うため、特に鎌倉・室町期物語については、高校の古文教材として適切であるか否か、教育学的見地からの検証も必要になる。検定教科書に掲載されにくい作品を多く取り上げるからこそ、専門的知見の提供も受けつつ慎重に作業を進めたい。 ただし、常に研究の進捗状況に鑑み、計画全体を柔軟に見直しながら、着実に成果を積み上げていくことを優先するものとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の成果を二本の論考として公表したが、いずれも投稿料を必要としない学術誌であったため、当初計画に計上していた「投稿料」分の余剰金が発生した。 また、専門的知見の提供を受ける際も、旧知の間柄ゆえ、「謝金」を固辞されたため、これも当初計画よりの余剰となった。 本年度の研究を遂行するに当たっては、教育現場での臨床研究に力を入れ、急遽プロジェクターを購入するなど、より多くの予算を配当するようにしたのであるが、その分、当初の「研究計画調書」において計上していた「辞書類」と「作品論関係図書」の設備が手薄となっている。次年度においてもこれらに関する図書予算の請求は行うが、本年度不十分だった設備を完全には補い得ないため、ここに併せ充当することで、作業の進展と効率化を図りたい。
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