2012 Fiscal Year Research-status Report
リン酸化プロテオームを用いたヘルペスウイルス病原性発現機構の網羅的解析
Project/Area Number |
24790434
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 哲久 東京大学, 医科学研究所, 助教 (40581187)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 単純ヘルペスウイルス / リン酸化プロテオーム / 神経病原性 / 軸索輸送 |
Research Abstract |
本研究は、(i) 高感度かつ信頼性の高いリン酸化プロテオーム解析により同定済みのHSVウイルス因子の各リン酸化部位の生物学的意義を解明すること、(ii) 新規に導入する定量的リン酸化プロテオーム解析により、ウイルスPKがハイジャックする宿主細胞因子のリン酸化制御を網羅的に同定すること、の2点を目標とした。 (i)に関する実績:同定済みのウイルス因子のリン酸化部位の大半に関して、組換えウイルスの作製と培養細胞系におけるウイルス増殖およびマウス感染モデルにおける病態発現への影響の解析を終了した。その結果、HSV-1 UL50にコードされるvdUTPase Ser-187のリン酸化が、in vivoにおけるHSVの中枢神経系(central nervous system)の破壊能すなわち神経病原性(Neurovirulence)を促進することを見い出した。また、HSV-1 UL35にコードされるVP26 Thr-111のリン酸化が、眼球から三叉神経節への効率的なウイルス伝播すなわち神経軸索の逆行性輸送(retrograde transport)を促進することを見い出した。 前半の知見は、第27回ヘルペスウイルス研究会、第37回国際ヘルペスウイルスワークショップ、第60回日本ウイルス学会学術集会において、その成果を発表済みであり、現在、論文作製中である。後半の知見は、より詳細な解析を継続中である。また、vdUTPase Ser-187研究における神経病原性の解析を共同研究に水平展開し、HSV-1 UL49にコードされるVP22が、強力な神経病原性因子であることも、国際学術誌であるJ. Virol. 86: 5264-5277.に報告した。 (ii)に関する実績:定量的リン酸化プロテオーム解析の導入に成功し、ウイルスPKがリン酸化を促進する宿主細胞因子の10種類の同定に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載した通り、本研究は、(i) 高感度かつ信頼性の高いリン酸化プロテオーム解析により同定済みのHSVウイルス因子の各リン酸化部位の生物学的意義を解明すること、(ii) 新規に導入する定量的リン酸化プロテオーム解析により、ウイルスPKがハイジャックする宿主細胞因子のリン酸化制御を網羅的に同定すること、の2点を目標とし、その2点ともに既に完了に近い結果を得るに至っている。 (i)に関しては、研究実績の概要の記載通り、HSV疾患のアンメットメディカルニーズの一つであるヘルペス脳炎の発症を司る分子機序の解明に至ったことから、十分な成果が得られたと考える。(ii)に関しても、申請時の目標としたウイルスPKがリン酸化を促進する宿主細胞因子の網羅的の同定が既に完了し、同定した新規宿主細胞基質の1つであるSNX3に関して、詳細な解析が、培養細胞系と動物実験系で進展していることから、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
申請当初の予定では、本年度は以下の(i)~(iv)を解析予定であった。 (i) 作製したリン酸化部位特異的組換えウイルスを用いて、ウイルス基質のリン酸化が培養細胞における様々な感染現象やマウス病原性モデルにおける病態発現に果たす役割を明らかにする(ii) (i)において、著しい弱毒化が確認された組換えウイルスが得られた場合は、HSV性器ヘルペスモデルに対する感染抑制能を解析する。(iii) 定量的リン酸化プロテオーム解析において、同定されたウイルスPKがハイジャックする宿主細胞基質をshRNAによりknockdownした細胞を作製後、リン酸化部位に上記アミノ酸置換を導入した変異宿主標的基質を外来的に発現させ、リン酸化の影響を基質の機能に準じた手法を用いて解析する。 (iv) (i)(ii)において、興味深い役割を果たことが明らかとなったリン酸化部位に関して、ウイルスPKによって直接リン酸化されうるか否かを、申請者が確立したウイルスPK試験管内反応系を用いて解析する。 これらの内、(i)は既に完了し、 (iii)および(iv)に関しても、既に興味深い2分子に関して、解析を進めている。そこで、本年度は、(ii)に着手し、作製した組換えウイルスのワクチン能をスクリーニングする。また、(iii)に関しては、現在進行中の2分子に関して、より詳細な機能解析を継続する。手法等の変更は特になし。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請時の予定と大幅な変更点はなし。 消耗品費:分子生物学的解析・ウイルス感染実験には消耗品が必要である。本研究ではリン酸化現象を集中的に解析するため、アイソトープおよびPhos-tagは必須である。また、リン酸化現象とHSVの病態の関連を解析するため、マウス実験も多用することとなる。したがって、マウスも数100匹単位で必須となる。 一般試薬(10個)x50千円、酵素類(10個)x100千円、トランスフェクション試薬x50千円、キットx100千円、培地試薬(70個)x70千円、牛胎児血清牛(5個)x100千円、マウス(200匹)x100千円、ガラス器具(30個)x60千円、プラスチック器具(20個)x20千円、アイソトープ(2個)x100千円、Phos-tag試薬(2個)x100千円 旅費:国内外の学会に参加し、研究打ち合わせおよび情報収集を行うのに国内外旅費が必要である。積算根拠(各年度):国内旅費、50千円x 2回=100千円/年、外国旅費、400千円/年。 また、宿主因子のリン酸化の解析が順調であるため、上記の残金をcDNAや抗体の購入に回すことで、効率的に多数の宿主因子の解析も実施したい。
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