2014 Fiscal Year Annual Research Report
前近代日本の一人あたりGDP:推計・分析・国際比較
Project/Area Number |
26285075
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
斎藤 修 一橋大学, 名誉教授 (40051867)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深尾 京司 一橋大学, 経済研究所, 教授 (30173305)
攝津 斉彦 武蔵大学, 経済学部, 准教授 (30613393)
尾高 煌之助 一橋大学, 名誉教授 (90017658)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 経済史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は,明治以前における国内総生産(GDP)統計を新たに整備し,一人当りGDPの推計を明治初年から幕藩初期へ,さらには中世にまで遡って行い,その推計値にもとづき長期の経済発展の分析とその国際比較を試みることである。この目標のうち近世の一人当りGDPのベンチマーク推計(ベンチマークは1600,1721,1804,1846年)を,第一年次である平成26年度中にほぼ固めることができた。 この様に迅速な作業が可能であったのは,第一に近代以前における非農部門シェアの推計に明治期の府県パネルデータを利用するという,本プロジェクトがとった方法論が適切で効果的なものであったこと,その明治パネルデータを構成する1874年の府県別産出高推計が研究分担者の努力によって早期に利用可能となり,そこから計算された第一次・第二次部門シェアを以て徳川時代の産出高を推計できたことによる。 近世の一人当りGDPは完成版ではなく,残り期間内にさらに改良を加える予定であるが,全体として妥当な推計となっている。たとえば,この分野における代表的推計であるアンガス・マディソンのそれと比較すると,水準には大きな違いはないが(最大で十数パーセントの差),近世前期と後期のパターンに明瞭な差がみられる。マディソンでは前期から後期にかけて直線的に一人当りGDPの上昇がみられたのに対して,私たちの推計では前期における停滞(わずかなマイナス成長)と後期におけるマディソン推計の成長率を上回る上昇となった。これは,これまでの研究者が描き出したところの徳川経済史像と十分に整合的な結果といえる。 その他,徳川時代の実収石高,都市化率等にかんして,推計の基本的な考え方を変えないまでも,利用データを地域まで降りて再吟味し,不連続や不規則な変化がないかどうか点検し必要に応じて修正をした。とくに都市化率は従来の推計よりも精度が高まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度における当初の計画では,(a-1) 徳川時代における実収石高(中村哲推計)の再検討,(a-2)その系列の最終年次の値が『長期経済統計』(LTES)ベースの農産高系列と整合的か否かの検討,(b-1, b-2) 明治期の府県パネルデータに依拠した回帰分析による,近世における第二次部門・第三次部門シェアの推計,(c-1) 近世人口系列(既往の速水融および鬼頭宏推計)の再検討,(c-2) 中世後期から近世における都市化率(斎藤誠治推計)の再検討の諸課題に取組み,加えて (d) 中世における産出高の推計にも取りかかる予定であった。 このうち(a-1)から(c-1)までの5項目については計画以上の進展があった。最初の(a-1)の作業は,地域別データの精査を行ったことによって実収石高(中村推計)の改訂版を作成し,また,明治初年の1874年にかんする府県別の第一次部門産出高推計値が利用可能となったことによって,徳川と明治系列の接合がスムーズに行うことができた。(c-1) では地域別に降りることによってデータの点検を行い,(c-2) においても近世の都市化率(人口1万人以上基準)推計にかんして想定以上に実質的な改訂を行うこととなった。その結果,当初計画では平成27年度に行う予定であった,一人あたりGDPのベンチマーク推計とその部門構成にかんしても作業を開始し,平成26年度中に何度か改訂作業を重ね,いまだ暫定版ではあるが,かなりの程度納得のゆく値を得ることができた。このように平成26年度の作業を近世に集中して行うこととしたため,(c-2) の中世の部分と(d)の中世産出高推計の課題にかんしては平成27年度に行うこととした。 それゆえ,7課題を総合すれば「おおむね順調」といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
近世については,平成26年度中に得られた一人あたりGDPの暫定推計値を,以下の3点にかんしてさらに吟味する。 第一に,一人あたりGDPとその三部門分割の暫定結果を1840年代長州藩の『防長風土注進案』を利用した故西川俊作の研究結果と比較すると,若干の相違が生じていることがわかった。原拠である『防長風土注進案』とその集計過程の再検討が必要である。とくに,西川には産業連関表の構築とそれによる地域総所得(GRP)とその部門分割の仕事があるので,実物・価格両面から西川の作業過程の洗い直しを行うこととする。平成27年度から尾関学(岡山大学)に研究分担者として加わってもらうことによって,暫定推計の整合性チェックの一助とする。 第二に,これまで試みられたことのなかった徳川時代の就業構造(労働力の三部門分割)の推計に着手する。この作業もまた一つの整合性チェックの意味をもつ。 最後に,暫定版の第一次部門産出高は実収石高(中村推計)の小幅修正値に依拠したが,中村の方法論にまで遡って検討をする。これが大きな改訂に結びつく可能性は大きくはないが,念押しはしておきたい。 中世にかんしては,室町期から徳川初期にかけての総人口にはすでに見通しがたっているので,(a) 都市人口および都市化率の検討,(b) 鎌倉時代-室町時代の2時点について得られる土地生産性データの再吟味,(c) 鎌倉から戦国時代にかけて増加する物価・賃金データの詳細な分析を試み,そこから総産出高推計への手がかりを探る。これらの作業は本学大学院生高島正憲の協力を得て実施する。
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Causes of Carryover |
成果報告のために計上していた旅費が、日程調整などにより安価な支出に収まったことと、研究推進のために参考にする予定だった地域別の人口推計に関する文献執筆作業が、著者の都合により次年度へ移行されたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
地域別の人口推計に関する原稿執筆謝金と、西欧諸国とアジア諸国の比較研究の専門家を招聘するための旅費として使用する。
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Research Products
(16 results)