2017 Fiscal Year Research-status Report
BOP層のイノベーション促進に有効なモノづくり教育の研究
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26350439
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
澤口 学 早稲田大学, 理工学術院, その他(招聘研究員) (80558099)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グラスルーツ・イノベーション(GRI) / 多様なイノベーション活動 / ジュガード・イノベーション / 微創新 / 日本の改善活動(Kaizen) / 日本発祥の5S活動 / 国際協調を可能にするモノづくり教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
前半期の研究では、日本に比較して中印の方が品質に対する許容範囲が広く、その一方で、中印の目線では日本の品質基準が過剰と評価されるケースも有る得ることが判明しました。これらの成果は国際会議や国内学会で順次発表し、H28年度は国際学会の査読論文(PICMET:米国)として採択されました。その後、現地のフィールド調査から、“日本の改善活動”と類似する活動がインドでも確認され、ジュガード・イノベーション(ヒンズー語で独創性と機転から生まれる即席の解決法)と呼称されていることが判明しました。一方中国でも、IT業界を中心に微創新(スピード重視のミクロな改善での顧客囲い込み活動)という改善活動が近年注目されております。いずれも“当事者が現場で直ぐに改良する”という観点では、日本の改善活動(以降Kaizenと呼称) に通じるものがあり、GRI(グラスルーツ・イノベーション)としての共通性もあります。しかし、Kaizenが組織的で継続が大前提なのに対して、中印の場合は、個人的で一過性の活動に留まる事が多く、この点でKaizenと異なります。そこで、H29年度( 最終年度だが1年延長)は、これらの研究成果を踏まえて「GRIも含めた多様なイノベーション活動に関する調査」を実施し、日印でのモノづくりに関する共通・異質性を統計的に分析して、その結果を経営システム学会へ論文投稿し受理されました。本論文では、日印での国際協調の可能性を体系的に提案しております。最終年度(H30年度)は、中国での調査結果も加えて、日中印3か国の多様なイノベーション活動での国際協調の可能性を探り、日本企業が展開すべき新興国でのモノづくり教育の在り方を提案する予定です。さらに、日本発祥の5S活動が、このようなイノベーション活動の強力な牽引力になり得ることも、部分的でも実証したいと考えております。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度には、インドのローカル系中小企業を対象にして、5Sの導入・定着の可能性に関するフィールド調査を実施し、現時点では5Sの展開は困難であるという結論に至りました。そこで、H29年度は、中小企業に固執することなく、日本企業とのビジネスのコラボレーション機会が多いインドの大手製造業に着目し、改善活動(GRI)を継続的に展開するための方策を探る研究にシフトしました。具体的には、主に大手企業が参加する経営系国際カンファレンスで、「多様なイノベーション活動とモノづくりに関する調査」を実施したわけです。この結果、少なくとも、インドの大手企業は、日本発のKaizenを尊重し、継続性の重要性も認識している事実を把握することができました。このKaizen活動の継続の根底には、当然5S活動も含まれます。一方、現代のモノづくりの国際市場では、新興国も含めて多様なイノベーション活動が最重要課題になっております。しかし、今までの研究成果を通して、これらのイノベーション活動を実施する上でも、組織的で継続可能なKaizen活動が全てのイノベーションの土台になっているとの考えに至りました。そういう意味では、Kaizen活動にフォーカスした国際協調によるモノづくり活動の日中印の共通・異質性は概ね整理できたので、新興国でのイノベーション活動の底上げに有効なモノづくり教育の方向性は定まってきたと考えております。
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Strategy for Future Research Activity |
中国・インドの新興国のモノづくり現場では、中小企業レベルへモノづくり教育(5S含む)の展開をいっきに図る前に、日本企業とのコラボレ―ション機会の多い大企業で、日本と新興国(本研究では中印)の両方の目線から現地に適した品質基準を検討し、相互理解のもとで、品質基準を保証・管理する教育を現地の大手企業の社員に施すことが第一段階であるとの認識に至りました。その理由は、H28年度にインドで実施した中小企業向けの5S活動に関するフィールド調査を通して、現地中小企業が自力で5S継続展開する能力は極めて低いことが判明したからです。やはり中小企業には、大手企業からのサポートが必要です。一方、同時期にインドの経営系国際カンファレンスで、モノづくりに関するアンケート調査を行った結果、インドの大企業では思いのほか継続性やそのプロセス(PDCA)管理に関する教育の重要性を認識している方が多いことも明らかになりました。一方で、中国での同様の調査では、改善の継続性やPDCA管理への認識はインドより相対的に低かった印象です。これはKaizenの浸透がインドより遅かったことが一つの理由ではないかと推察されます。今後は、5S活動がこのようなKaizenの根幹をなすことを、日本の研究協力企業(中国工場もあり)での5S活動に関する実証調査も踏まえて、新興国でのイノベーション活動の底上げには、5S活動を意識したモノづくり教育が有効であることも提案したいと考えております。具体的には日本の5S活動に準じる日常の”凡事徹底的なSTEP by STEP活動“を、現地の改善活動の特性にマッチングするように修正して、5Sを機能的に理解できるシンプルなガイドラインとして提供できるようにしたいと考えております。このようなツールも含めて、最終的にはイノベーションマネジメント系国際学会への投稿論文で最終的な成果に仕上げたいと思います。
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Causes of Carryover |
(理由)平成29年度は、前述したように、日印間のモノづくり産業を対象にしたアンケート調査の結果から、両国間のモノづくりに関する共通・異質性を考察し、その成果を最終的には学会論文として、経営システム学会誌に投稿し掲載に至りました。しかしながら、中国での類似調査も含めた3国間の比較分析には至っておらず、日本と中印間で有効な国際協業に有効な教育アプローチに関する最終的な考察もまだです。このような背景から、最終年度を1年延長して、それに合わせて直接経費も14万円ほど繰り越し致しました。 (使用計画)H30年度(新たな最終年度) は、Kaizenや5S活動と絡めたモノづくりの国際協業の在り方まで深掘りして、国際学会で研究発表を行い、再度、学会ジャーナルにも論文を投稿する予定です。従って、繰り越した直接経費の約14万円は、これらの研究活動の一部として充てる予定です。
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Research Products
(4 results)