2014 Fiscal Year Research-status Report
広津柳浪作品分析を中心とした明治三十年代文学の鳥瞰
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26370235
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
全 美星 神戸大学, 人文学研究科, 講師 (30582499)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天野 勝重 大谷大学, 文学部, 准教授 (20390106)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 広津柳浪 / 明治三十年代 / 家庭小説 / 翻案小説 / 日本統治下朝鮮 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は明治三十年代における広津柳浪作品と同時代の社会性との関連に対する分析と、同じく明治三十年代に興隆をほこった所謂「家庭小説」考察、さらには日本統治期の朝鮮におけるその受容、以上三つの方向から研究を進めた。 柳浪作品に描かれた同時代の社会性分析については、1900(明治三三)年『ニ六新報』に発表された『乱菊物語』を取り上げ、発表の二年前である1898(明治三一)年に施行された明治民法の影響下にあること、特に婚姻と離婚の条項が細部に至るまで具体的に制定されたことが作品世界に大きな影響を与えている点を明らかにした。 また明治三十年代に隆盛を極めた「家庭小説」からは、「家庭小説」の代表的な作品と目される菊池幽芳『己が罪』(1899~1890(明治三二~三三)年『大阪毎日新聞』)について、小説の「型」やキリスト教思想の用いられ方を分析した。さらに、日本統治下の朝鮮で、同作品が趙重桓により『双玉涙』という題名で翻案・発表されている点にも考察を進め、その詳細なテキスト分析と共に『己が罪』と『双玉涙』の、それぞれ自国の文学史における位相を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
広津柳浪の明治三十年代発表の小説の中で先行研究ではほぼ手つかずの作品を対象にするという当初の予定通り、先行研究がきわめて少ない「乱菊物語」を初出(『二六新報』)から取り上げ、入念なテキスト分析を行うことができた。 また、同時代の文学状況の研究として今年度は「家庭小説」を扱う計画であったので、まず、家庭小説の濫觴とも代表的作品とも言われる『己が罪』分析にも取りかかった。小説の型や明治社会の諸相との関連、特に、キリスト教的思想がモチーフとしてどのように用いられているか等を明らかにすることができた。 その上で、日本統治期の朝鮮における変容の様相にも視野を広げた。広津柳浪作品分析と同時代文学の研究、および朝鮮での翻案作品についての研究、という3つの分野においてほぼ初年度の計画通り研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、広津柳浪作品分析については、今後も先行研究ではほとんど顧みられなかった作品を掘り出し書誌事項研究から詳細なテキスト分析まで実施する。 一方で同時代文学の研究だが、それらに示される大衆性や娯楽性を考察する上で、明治三十年代のみならず遡って二十年代に大流行した大衆的小説にも注目する必要性があると判断した。そうすることで、一連の傾向を通時的にとらえ、大衆性と娯楽性の系譜を分析することが可能と考える。次年度以降はこの作業を加えていく予定である。なお、いずれとも研究成果を今年度同様、学術論文等として公に発表する計画である。
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Causes of Carryover |
所属先変更による諸手続き等で、春期長期休暇に計画していた国内・国外への調査旅行を実施することができなかったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、夏期休暇や春期休暇等、長期の休みを利用して国内・国外への調査旅行を実行する計画である。
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Research Products
(2 results)