2015 Fiscal Year Research-status Report
中世後代写本「派生」本文諸異読の分析に基づくプラトン著作本文伝承の総合的研究
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26370363
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Research Institution | Josai International University |
Principal Investigator |
瀧 章次 城西国際大学, 環境社会学部, 准教授 (60458693)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プラトン著作中世写本 / 本文校訂 / 『ミノース』 / 『アルキビアデス 1』 / 本文伝承 / 異読 / 後代写本 / プラトニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
先ず本研究の資料的前提条件が大変革を遂げつつある。ヨーロッパ中世写本所蔵図書館が、就中、ヴァチカン図書館、フランス国立図書館、オクスフォード、ボードリアン図書館が、所蔵写本を白黒マイクロフィルムの複製ばかりでなく、カラー電子複写版でインターネット上で公開し続けている。プラトン著作関係に限っても、現存最古の本文再構成上重要写本、ボードリアン写本(B)、パリ写本(A)、ヴァチカン写本(O)がカラーで公開されるという本研究分野においては、基本的資料がすべての人に公開され、自由にアクセスでき、研究者相互に検証可能になったという意味で画期的な事が生じた。これに加えて、フランス国立図書館に所蔵されているプラトン関係写本がほぼすべてが公開されている状況になった。この点でも、9年前にプラトン著作写本の研究を始めた身にとっては想像しがたいほどの大転換が生じている。しかも事は、プラトン中世写本に限らず、およそ全領域の中世写本、さらには、初期印刷版本incunabulaから20世紀初頭に至る多くの書物が無料で電子媒体で公開されていく状況にある。即ち、ヨーロッパ関連研究にとっては、資料へのアクセスという点で大転換が進捗している。このような状況にあって、研究そのものの意義を再考する俯瞰的作業を加えつつ、本研究固有の領域で、先に言及した重要写本の再精査によって過去の白黒マイクロフィルム時代には判読し難かったインクの違いを確かめ校正者の区別を施し、先ず偽作『定義集』の校合を行った(次年度報告予定)。他方、申請書通り未公開のヴェネツィア、サンマルコ寺院図書館所蔵の後代写本本文を校合し擬作『ミノース』編の諸異読を整理し成果を所属大学紀要に発表した。また、擬作『アルキビアデス 1』同写本の伝承過程を分析し同じく紀要に発表した。また写本研究の意義に触れるプラトン研究関連論文を図書所収論文として寄稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に考えていた以上に本研究そのものの資料的な前提条件が良い意味で大転換を遂げている故に、人文社会学的には研究そのものの意義を俯瞰的に再考察すべき時にあるけれども、この申請後新たに生まれているこの大課題には未だ十分答えを見いだせぬまま、申請通り、今までの経験的スキルに依存して、作業を進め、個人研究史的には、過去の研究成果を是正し、その上で、新たに二つの研究成果を公にし、関連論文を公にできた、かく回顧すれば、責任を十分果たしているとは言い得よう。が、そうは言い得ても、なお人文研究全体、ヨーロッパ研究全体を、次代に継承していくというより重要な課題に関しては、時代の状況を、異なる分野の研究者と議論して、研究領域全体の地平を更新していくことが新たな時代を切り拓くために必要ではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の『ミノース』篇関連の成果に基づき海外から関連研究として英語による注釈を寄稿するよう依頼を受け、その作業を進めている。他方、申請の通り、後代写本の異読の分析研究として、現在、15世紀イタリアルネッサンス期のラテン語訳に用いられた写本が何であるかを検討している。後の16世紀印刷本に使用された写本は、煩瑣ではあるものの既に前年度末に解明できたが、これに比べて、極めて困難である。その最大の理由は、とりわけFicinoの場合、ある一定の本文校訂意識をもって複数の写本から異読を比較検討してそこからラテン語訳を作成しているからである。プラトン著作の伝承過程全体を個別作品ごとに明らかにする本研究の課題として残された難問である。この難問に対して、次年度エステンセ写本、フィレンツェ後代写本を入手して、問題の解明に努める予定である。
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Causes of Carryover |
21円の残金が生じた。物品費、そのほかの使用で、消費税や外国への支払いの際の外貨換算などにより、最終合計が所要額ちょうどとならなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画に沿って次年度に加えて諸費用の一部に充当する予定である。
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Research Products
(3 results)